また春が来ました いつになく狂(たぶ)れた春が。 むせ返るようなこの精気、この陽気 春は正気を殺め、花はあらぬ秘密を漏らすでしょう。 発情した花々の囁きに うぶな猫さえ盛りをむかえた 黒い毛並みがぬらぬらと光るのは、 春風の接吻(くちづけ)たあと。 さても艶やかな春の色彩 かたくなな守りも、 年経た守も 誰もが知らず知らず眠らせた蕾をほころばし、 陽気に誘われ彼女らの魂は昇りゆく 足下には雪に埋もれた土のような雲が広がって 空には春風に盗まれた花が狂い咲き、 天と地は眩く。 春風よ、おしよせろ、あの廃れし園にまで 遠く遠く離れたあなたの園生に忍びこみ、懐かしい色を捧げよ。 人知れず廃園に葬られたあなたの頬を また紅く染めるため。 花盗びとらが 埋れ木の花に春を告げるため 朽ちた木の扉(と)を叩きます。 おとなうその物音に、あなたの園生はありし日の姿を幽かに取り戻す。 いま朽木の扉が開くとき あなたの秘密の扉も開きます。 狐色した木々に、巨木の孤影に薄紅の灯がともる 恥らうあなたの頬に似た。 かつてを招く狂れた春の夜に 忘れえぬあなたの面影はわずかに返り、一夜の夢を見るとも 明け方に目覚め、 夢虫となり飛び去ってしまうでしょう。 閉ざした蕾に春の面影をかき抱き あなたの中には恋心が眠る 朽ちた花びらと蝶の亡骸に包まれて あの花の下には秘密が眠る。 また春は来ます 狂れた春も、正気な春も。 しかしあなたの園生に、 まことの春が来ることは、もうありません。
《
紅魔郷詩文へ
》 《
戻る
》 《
萃夢想詩文へ
》
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送