汝(なれ)らはこころの盗びと 手にした鏡で 嘘を奪う。 鏡は水銀製 その銀色の水面に メルクリウス殿は睡り給い、 汝らの手にした嘘と引きかえに 盗びとの神は 金緑石を授ける。 花冠にこの宝石を戴く 汝らは茨の娘 奥つ城の深くに咲き、身に荊棘を宿す。 花むすめらは戯れに 互いの宝石をひたと合わせて 秘密をわかち、 接ぐことでのみ栄える茨の花は その代価として またこころを盗む。 茨と生まれた哀しき運命(さだめ) 仇なす穂先は 授け物を絶えず傷つける。 宝石の傷あとより噴く硫黄の火 今わの際に見た盗びとの姿を映しだす 犠牲者が汝らの鏡に刻む恐怖、 上の娘は思い知り 下の娘は盗びとの罪に怯え 鏡は水銀の血を流す。 メルクリウス殿の血潮の果て 汝らを囲う 深き朱の花。 奥つ城の花園で 上の娘は刺を鋭くし 茨の花であるを示し、 下の娘は 薔薇であることを忘れるために 刺をぬく。 もはや汝らを接ぐ貴石は欠け ありし日をこいしと呼ばう声も届かぬならば ただひとりで花を育てるのみぞ。 頭上に茨をむけ窓を覆う上の娘は 下に花開き そして地に置いた鏡で天を見据える。 下の娘は閉ざした園生の内で 上に花咲かせ、世の果てをのぞみながら そのくせ太陽に鏡をかざしわが身をくらます。 汝らのメルクリウス殿 捧げ物がなければと星の宮に返られ ただ日輪とのみ語らう。 しかし盗びとの神の意図せぬ贈り物 汝らのもとに運ばれた 日の輝きと温もり。 廃園に人知れず小さな野薔薇は育ち いまやこの地上の太陽が 宝石をなくした汝らをあらたに結びだす。
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