終わりの春来り わが胸の内は引き裂かれ 噴き出す血潮は黄昏色に染む。 白日の下に晒された 嘔吐をもよおすようなわが罪 鮮やかに色づけば これがわれの印とて 神はわが胸に一輪の花を刺し、 地に鎖をもって繋ぎとめた。 七彩に色取られし花冠の灯(あかし) 眩くなるほどに わが醜貌を示し、 弁明のための舌ははや切り落とされて いまや口は固く閉ざされり。 罪を思い知るために、終わりを迎えるためだけに咲いた、 アネモネ、 ヒース、 鈴蘭、 狂れたリコリス、 死びとの肌をした桜。 物言わぬ麗しき地獄は、 わがまわりに そしてわが胸には、 病んだ向日葵。 美しく花開くほどに 色鮮やかなほどに 罪は深くなりて、われらを留め、 まことの楽土は遥か彼方に遠のく。 枯れ朽ちるは幸いか 明るい花、 孤独な花、 強きも、弱きも、 やがては土に還る運命(さだめ)。 なれどもわれは慄き、いまだ迷う 美しくもむごたらしき花冠を脱ぎ捨てるを願いつつ、 手は強く地のくびきを握りしめる。 花陰にはいつしか迷いの唄 幽かながらも響きわたり、 われらの歌声を、ああ、フロラよ あなたは耳にした。 妙なるフロラ 罪深き花さえも愛でる 遍くわれらに注がれたあなたの笑みは太陽のようで、 わが胸に咲いた向日葵さえ あなたを見つめ、健やかなるときを思い出させた。 美しきフロラ われらよりも植物らしき植物 花なるをとめ 儚い香りを漂わすとも、 あなたは誰よりも輝ける花を開かせる。 ときとして残酷なるフロラ 栄えるためなら他を抱き殺すも厭わず そ知らぬ顔で土の恵みを奪われる たとえ罪を罪と思う心がなくとも 迷いなく花を咲かすその強さ。 死の大地にさえも芽吹き 身を毒に浸そうとも 天を見据えて、地に栄え、 枯れ朽ちてはまた生まれてくる 花々よ、強きものよ。 あなたの誇らしき姿に われは羨み、 わずかに畏れる。 そしてまた、われは思い知る 自然というものを。 仮初なれども あなたと同じ花となれたこの幸い いますべての思いと共に土に還し、 花冠を脱ぐを望む。 偽りなれど、弱きなれど せめてあるべき流れにのって枯れ朽ちるため。 妖かしのフロラよ ただ微笑みたまえ、 わが屍に咲いた花を見て ただそれまで見守りたまえ、 戴く冠の色をわが手でいつか還すときを。 アネモネに導かれ、 鎖を外し 神よ、 いまあなたの下へと向かう 胸の向日葵は睡らせ、罪はわがうちに、 そして神よ、わが上にふさわしき贖いの冠を授けたまえ。 フロラ、 あなたは魂なき土に、われらの骸がころがる土に 満遍なく非情の力をふりそそぎ、鋭き一撃をもって花を植えたまえ。 あなたの手により、荒地に色彩はまた芽吹く。 花陰に響いた迷いの唄は いまや絶え、 終わりの春はすぎゆく 野辺に残るのは 嘆きやまぬ死びとの桜と、花をとめ。 フロラ、 あなたよりも先に終わりを迎えた ただあなたひとりを残して。 すべての花が睡りにつき、 あの桜さえやがては無垢となる中、 あなただけが変わらずそこにいる。 フロラ、 いまだ枯れないただひとつの花 いつまでも、強き花のあなた。 しかしいつかあなたも身を繋ぐ鎖を断って、 ふさわしい花を取り戻すため 土に溶けゆくか? 美しきものはいつまでも美しくあれと こい願う、 わが思いはたとえ浅ましくとも われは祈る 妙なる花としてあなたがいつか回帰するを。 またわれは願う、 この身に罪を負う運命となれど、ふたたびいつの日か 雨とともに降り、土に還り、 花と生まれて、また清らな身となり、 そしてあなたの塚にリコリスの言葉を贈りたい。
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