1 どこか遠くで聞こえるRadioの電波…… 「見よ、直立する舎密(せいみ)の威容を Scienceの夜明けなり……」 旗の陰にアストロノートの亡霊…… 「これはひとりの人間に…… 人類にとっては……」 深夜11時に夜明けの夢を見た。 まっ黒い海を泳いでいった、 ぴかぴかと光るあの石を目指して 身についたものすべてを捨てて裸のこころで。 お母さん、かつてあなたの夢語りに聞いた場所へむかう そんな夢を見ました。 (しゃらんしゃらん、 土(ち)は鈴のように輝いて ほろりほろり、 天からきれいな音がきこえてくる……) あなたの夢に聞いた場所はここですか あなたの住まう場所はどこですか ここは冷たく寂しいところです、 あなたの教えてくれたものが何ひとつない。 夢の言葉はもう古くて大きいだけのあのMonolithに 凍りついて、残されて、過去のもの。 目の前も足元も輝いています、 新しい夢の光に照らされて。 その夜明けの光がすべてを包み、飲み込んでいく 輝きの増すごとに 置き去りにされた墓標の影は濃くなって あなたの影を細く伸ばしていくばかり。 (あなたの見せてくれた夢は いまどこに) ……深夜11時に新世界に行った夢 昔の夢をなくした夢 2 「十で神童とよばれたあなた 十五で才子となったあなた 二十をむかえれば何になる?」 真夏の日差しは容赦なく影を映して 溶け出した思い出を縁取り 踊る影法師にこころは乱される、 懐かしい思い出に涙ながし いやな思い出にうなされて。 忘れてしまったり 忘れてしまいたがったりする、 この忘れんぼうの そむけたその背中にむけて影がよびかける 懐かしい声色で。 あのねあなた、覚えている? (何を) お母さんと遊んだ日のこと (いつかしら) ふり返れば昔の面影 楽しそうに笑っては 遊んでいる。 淡い思い出の青さは 若苗のみずみずしさに似て、 届く声は翳りなく。 お母さん、唄いましょう あなたは笛を吹いてください 手作りの、この笛で。 そうして一緒に 唄にのせて飛ばしましょう 何度も何度も飛ばしましょう お母さんたちのお名前を。 風に吹かれてお空をゆけば 遠くの誰かが 聞いてくれますよ…… むごたらしくすみきった青空の下 泣こうとうなされようとそしらぬ顔で 恐れを知らない子供は告発しつづける。 「ごめんなさい」とつぶやけど 「覚えていないの」をくり返して。 ……真夏の12時、白昼に Enfant Terrible(アンファン・テリブル)の幻 3 ふたたびRadioは告げる…… 「聴け、貧しくとも住めば都なり 祈れば四畳半の隅にも神は宿り給う」 あるいは掃除機の予言…… 「いくら散ろうとも塵はまた降りつもり つもれば大きな山となるだろう」 昔なくしたお人形さん お母さんに似た顔立ちのお人形さん 消えてしまったと諦めていたら見つかった、 この小さな家で。 服はやぶけてぼろぼろに 縫い目はほつれてほろほろ乱れているのに それでも昔の名残をとどめてます。 このお人形をなおしたならもっとあなたを思い出せるでしょうか? わたしは不思議に思います、 こんな小さなものにさえあなたを感じることを。 色とりどりの端切れを集めて ま新しい糸でつよく縫いましょう たとえ昔と違っていたとしても 同じです。 この古くなってしまったお人形に あなたの面影を感じるかぎり。 ねえ、お母さん そうしてまた あなたのお名前を一緒に唄いましょう。 わたしは幾度もくり返します 風に散ってはまた降りつもる あの塵のように。
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