1 | 秘封倶楽部は何処にいる? [P/3] |
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00 | ××月××日 雲ひとつない晴れ 今日は学校が終わったあと、友人と一緒に喫茶店に行った。 ラベンダーの香りがする、感じのいい喫茶店だった。初めて行ったところだったけど、大当たり。 お気に入りはチーズケーキとエスプレッソ・コーヒー。 また行きたい。お金の関係で頻繁には通えないけど。 一人で行くのはつまらない。また、一緒に行こうと思う。 私の大切な友人。ふわふわした髪の毛と、穏やかな性格の彼女と。 彼女と友達になったのは、いつからだったっけ? 確か、一緒のサークルに入ったときからだと思う。 新入生歓迎会で彼女が言った「ところで、このサークルは何をするのかしら?」は忘れられない! そうだ、あの時から、私は彼女の友達になろうと思ったんだ―― ◆ ◆ ◆ 私、宇佐見蓮子には、他人に自慢できる特技が二つある。 一つ。あやとりが得意だということ。 これは特に珍しいというわけでもない。 少なくとも、超統一理論を専攻している人間ならば、誰だってできる。あそこの教授は超統一理論あやとり研の顧問で、ひも理論と絡めて『あやとりを実際にやることで全ては証明できる!』と主張する変人だ。そのせいで、メリーに『ひもの研究、順調かしら?』と皮肉られるのだが。 教授のことは嫌いではないのだが、彼を変人ではないと擁護することはできない。なんたら四次方程式という理論まで主張しているからだ。大型粒子加速器を使って過去・現在・未来・想像の世界を行き来できるという説は、どう控えめに考えてもSF小説の類だ。 しかし、教授のおかげであやとりが得意になったのは事実だ。今では『東京タワー』も『カニ』も数秒で出来る。たいてい一人あやとりだが、それでもかくし芸程度にはなる。その点では教授に感謝していなくもない。 そして、二つ目。 これこそが、私の本当の特技であり(胸を張って自慢のできる!)能力だった。そこいらの人では持ち得ない、私だけのものだ。 星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今いる場所が分かる能力。 大したことないんじゃないか、と思う人もいるだろう。そんな特技があったって、意味ないんじゃないか。時計と地図を持っていればそれですむ話ではないか。そう言う人だっているだろう。 ところがどっこい、この特技は、とある友人と組み合うことによって、最大限の効果を発揮するのだ。たとえば時計が壊れていたら? 地図を持っていなかったら? そもそも、地図がないような場所に、いきなり放りだされたら? 時間も場所も分からないところに突然出てしまったとしたら? そんな時にわたしの能力がさっと閃く。ちょっと上を見るだけでいい、そこに月と星さえれば、私の脳裏に秘密が落ちてくる。ここは××で今は■■時だよ。月と星がそう囁いてくれる。なんて便利な能力! ……今日みたいに、雨の降っている日には使えないけれど。喫茶店の窓から見える景色は、相変わらずの雨模様。一寸先も見えないような土砂降り。時折、雷までが鳴っていた。昨日からずっと降り止まない雨に、少しだけ私はうんざりしていた。 そう、そういう意味では不便だともいえる。私の能力は、昼間や、雲が出ているときには使えないのだ。星と月が見えなければ使えない。夜限定の便利な能力。それは不便なんだろうか、それとも便利なんだろうか? 「蓮子、何を書いているのかしら?」 前の席に座るメリーが私の書く日記帳――つまり、これだ――を見つめて言った。私は見られないように本の背をメリーに向けて隠す。 これは半分日記帳だ、そう簡単に人に見せるわけにはいかない。残りの半分は秘封倶楽部の活動に使うメモ帳なので、見られても構わないけれど。 私の手帳は、ハードカバーのついた本のような外装だ。どうみても分厚い本にしか見えないそれを、私はとても気に入っている。余白が多く、頁は多く、いくらでも書き込めた。水を弾く防水仕様なのが嬉しかった。なんと書いてあるのか解らない表紙が好きだった。頁をめくって白紙が出てくるという、普通の本では考えられないことが起こるのが好きだった。まるで、白い頁に秘密が隠れているような、そんな想像さえしてしまう。 メリーから見えないように隠し、手帳に書き込みながら私は尋ねた。 「それで? 今日は一体どうしたの?」 今日私たちがこの喫茶店にきたのは、別に優雅なお茶会をしにきたわけではない。こんな土砂降りの(昨日から続いている!)豪雨の日に、しかも雷が鳴り響くような日にお茶を飲む趣味は、私にはない。 メリーが、“相談したいことがある。いつものところに行きましょう”と言ってきたからこそ、私はここにいるのだ。そうでなければ、さっさと家に帰って熱いお風呂に入って鼻歌でも唄っているだろう。たいていの人がそうであるように、私は雨の中で唄う趣味も踊る趣味もない。メリーにそんな趣味があっても、私は驚かないけれど。 私の問いに、メリーは深刻さを感じられない、あっけらかんとした声で答えた。 「蓮子。私、殺されるわ」 …………。 メリーの言葉を聞いて、私は考えるのを止め、店の中を見回した。 机の真ん中に置かれた小さな花瓶に、ラベンダーの花が一輪だけ挿してあった。どう見ても造花なはずのそれからは、ほのかにラベンダーの香りが漂ってきた。花に(あるいは水に? 私は花の専門家ではないのでわからない。店主に聞いてみたかったが、さすがにそれは躊躇った)一滴だけラベンダーの香水をたらしているのだろう。 耳に聞こえてくるのは“Somewhere In Time”。古く有名な曲のジャズ・ピアノ・アレンジ。落ち着いたピアノ・ソロのメロディー。 いい店だ、と私は常々思っている。落ち着いた、時間から切り離されたような、素敵な雰囲気。そして何よりも一番素晴らしいことに、客が私とメリーしかいない。その上、店主は必要最低限しか喋りかけてこない。落ち着いて話をするにはぴったりの場所だった。 私はかぶっていた帽子を脱ぎ、空いている椅子に置いた。机は四人掛けで、あまった残り一つの椅子にはメリーの帽子が置いてあった。 ぐるりと店内を見回してから、私はメリーへと視線を戻した。 正面に座るメリーはいつも通りぽややんとしていた。 まるで、ついさっき吐いた言葉が何かのジョークだとでも言うように。だが、そんなはずはなかった。メリーはいつだって真面目だ。“ま”が多少は抜けているけれど。 つまり、殺されるというのは、本当のことなのだ。 私は心の中で叫んだ。――ああ、これがジョークだったらどんなにいいか! もしこんなステキなジョークを言う人がいたら、私はその人の頬にキスをするだろう。 だが、生憎とそんな人がこの世に存在するとは思えなかったし、私の口はキスよりもおしゃべりを好んだ。 私は平静を装って(もっとも、動揺していたのはほんのわずか、小指の爪先程度だった)メリーに言った。 「……それで? 今度は何に追いかけられてるの? 前回が鬼で、その前がお稲荷様だったわよね。今度は天狗?」 「そう、あの鬼さんは可愛かったわ。おにぎりをあげたら美味しそうに食べてくれたもの。お酒を持っていればよかったんだけれど。……あれ? これは夢の事だったかしら? まぁいいわ。とにかく、こういうのを桃太郎話って言うのよね、たしか」 「メリー、話がずれてる。そして桃太郎は鬼を退治する話」 「そうなの?」 「そうなの」 そこで一度会話が途切れ、まるで出番を待つ役者のように、タイミングを計ったかのように店主が飲み物を持ってきた。 私はコーヒーに、一すくいのミルク。メリーには紅茶(さすがにブランデーを混ぜようとはしない。二人きりのときは遠慮なくするが、ここは一応外で、まだ昼間だ)と、一枚のクッキー。 注文もしてないのに来たのは、私たちがいつもそれしか頼まないからだ。今ではすっかり馴染みの客になってしまい、何も言わなくても店主は飲み物を持ってきてくれる。 ただし、メリーが突拍子のない注文をするときだけは、店主は少しだけ首をかしげ、それから黙ってメニュー表をメリーに突き出すのだ。 突拍子のない注文の具体例1。カレーが食べたいわ。 具体例2。え? カレーはないの? ならハヤシライスが食べたいわ。 私が思うに、彼女はまちがいなくカレーとハヤシライスの区別がついていない。そうでなければ、“なら”など言うものか! 「何の話をしていたのかしら?」 メリーは紅茶をすすり、クッキーを少しだけ食べ、もう一度紅茶を飲んで、幸せそうな笑みを浮かべた。 本気で何を話していたのかが、頭からすりぬけたらしい。 「貴方がオバケの仲間になりかけてる話」 私は応えて、コーヒーにミルクをそそいだ。 BGMのアンダンテと、おしゃべりのアニマートに、カチャカチャというスタッカートが混じる。 それが不協和音に感じないのは、よけいな雑音がないからだ。店の壁が厚いのか、外の雑音は聞こえてこなかった。 「おばけに“なる”のかしら? それともおばけに“生まれ変わる”のかしら?」 「おばけに“近づく”の、きっと」 「“お友達になりましょう”?」 「そうね、おばけは寂しがりやなのよ。だから仲間を増やしたがる」 「こっちの水は甘いわよ、ね」 「それは蛍」 「共通点はあるわ。一、暗いところにいる。ニ、暗いところで光る。三、夏の風物詩である。四、四、ええと……」 「四。蛍も幽霊も、もう幻想のものである。少なくともこの辺だとね」 いつもと同じように、話はずるずると脱線していく。 仕方がない、これこそが秘封倶楽部の“いつも”なのだから。メリーと私がそろえばこうなるに決まっている。 そう、秘封倶楽部! それはただの倶楽部でありがらも、只者ではない集まりだった。部員が二名しかいないのに、常ににぎわっていた。オカルトサークルでありながら、魔術の実験など一度もしなかった。 秘封倶楽部とは変人の代名詞であり、ロマンの象徴であり、夢の詰まった秘密の遊び場のような、そんな集まりだった! 私たちは悪魔に生け贄を捧げることはしなかった。暗い部屋で交霊術を試すことも、コックリさんとお話しすることもなかった。 何をしたのか? 秘密を暴いたのだ! 世界の向こう側に封じられた秘密を! 我が友人マエリベリー=ハーンの“境界を見る能力”によって! だからこその、“秘封”倶楽部なのだ。 私たちは倶楽部であり、友人であり、パートナーであり、仲間だった。誇称することなく断言するが、私たちのどちらがかけても、秘封倶楽部という奇跡が起こることはなかったに違いない。 メリーは独りでも、境界を見つけてそこに飛び込むことはできるだろう。しかし、私がいなければそのまま二度と戻ってくる事はなかっただろう。私という存在は彼女にとって現実側との接点であり、同時に道案内でもあるからだ。 私とメリー。二人がそろって初めて、“秘封倶楽部”は動き出すのである。 ……今日メリーに“いつもの所に行きましょう”と言われたとき、“また新しい境界を見つけたのね、秘封倶楽部始動ね!”と思ったのも、無理はないことなのだ。 なのに、いきなり“殺されるかも”と言われたら、肩透かしをくらうのも仕方がない。私たちのすることは、秘密を覗き見することであって、犯人を捕まえることでも、犯人を撃退することでもないからだ。それは警察の仕事だ。 ……とはいえ、こうして集まった以上は、話を聞くのが筋というものだ。もし事情が単純でメリー一人で何とかなるようなものなら、彼女はとっくに警察に駆け込んでいるだろう(メリーはそれができないほどのアホでも、反社会体制主義者でもない)。 そうしないということは、何か、私に助言を求めるような事情があるのだ。 花が咲きかけていた幽霊談義を打ち切り、私はコーヒーを口に運んだ。ミルクをまぜても、まだ少し苦い。その苦さが、私の脳の動きを活発化させた。 「それで、貴方はなんで殺されそうなの?」 「あぁ、そうだわ! その話をしにきたのよね、私」メリーはパン、と手を打ち合わせた。「でも、ホントはちょっと違うの」 「違う?」 「正確に言えば“殺されるかもしれない”ね」 私は沈黙した。殺される、と殺されるかもしれない、の違いはちょっとどころではない。それは造花と生花を同じ花だと主張するようなものだ。ささいでも決定的な差がそこにはある。 「よく解らないわね。メリー、詳しく説明してくれる?」 「えぇ、もちろんよ」 メリーは姿勢をただし、深く座りなおした。そして、秘密話でもするかのように、小声で囁いたのだ。 「人が殺されるのを見たのよ」 「それで?」 「それで? って……それだけよ」 「それで終わり」 「えぇ、お終い」 「つまり……話を整理するわね。メリーは人が殺される場面に遭遇して、犯人の顔を見た。そしてその犯人が口を封じようと、メリーの命を狙っている。そういうこと?」 ううん、とメリーは首を横に振る。 どういうことだろうと私は考え込む。これ以外に思いつく理由などなかった。口封じ以外の理由で考えられるとしたら、相手が凶悪な連続殺人犯で、次の標的をメリーに決めた。そういうことくらいしか考えられないが、この辺りでそんな凶悪な連続殺人が起こったというニュースは少しも聞かない。 私が目で続きを促すと、メリーは優雅に紅茶を飲んでから、話を続けた。 メリーの話をまとめると、以下のように思う(なぜまとめるかと言えば、すべて書き残していたらとてもじゃないがこの手帳一冊では足りないからだ! メリーの話は回りくどいし、おまけに回ったその先でどんどん脱線していく。会話の半分以上は少なくとも、事件とは関係のないお喋りだった。そっちの方にこそ力が入っていたのは、我らが秘封倶楽部最大の秘密だ)。 昨日の夜、メリーは帰路を急いでいた。 なぜか? 単純に傘を持っていなくて、雨に濡れるのが嫌で走っていたのだ。朝晴れているから夜も晴れているとは限らない。こればっかりは天気予報を見ていなかったメリーが全面的に悪い。 もっとも、傘をもっていたとしても、使わない方がよかっただろう。その日は雨粒どころか雷まで落ちていたのだから!! 稲光から逃げるように、メリーは全速力で走った。体育会のリレーで一位になれるくらいの速さで(と本人は言っていたが怪しいものだ。私が知る限り、メリーが優勝できるリレーは、亀のリレーくらいのものである)。 メリーがそれを見たのは、ひときわ強い稲光が、闇夜を切り裂いた瞬間だった。 メリーの視界の中、古くからある女子寮の、二階端の窓。 誰かが、首を絞められていたのだ。 カーテンの向こう。二段ベッドと、蛍光灯と、首を絞められる少女の姿が、はっきりと見えたのだと言う。 顔までは見えなかったが、制服で、被害者も加害者も女学生だということだけは分かった。一瞬だけだったけれど、確かに見た。そして、その一瞬の間に、犯人が振り向いた気がしたのだとメリーは言う。 稲光に驚いた犯人が、窓の外を振り返ろうとしたのだ。 その時にはもう、メリーは怖くなって逃げていた―― 「本当に怖かったのよ。雷もいっぱい落ちていたし」 そこまで喋り終えて、メリーはほう、とため息をついた。 私はため息をつけなかった。メリーの話が、予想していたものより深刻なものだったからだ。 紅茶も、コーヒーも、すでに飲み干していた。 おかわりはこない。頼まない限りは。頼む気もなかった。 マスターは奥でグラスを磨いていた。彼は、話を聞いていたのだろうか? 私は今更ながらにそんなことを考えた。聞こえているようには見えなかった。聞こえていて平然としているなら大した人だ。それとも女学生のジョークだと思ったのだろうか? 喫茶店のマスターが犯人の小説があったな――そう思いながら、私はメリーに、というより自分に向かって呟いた。 「女学生以外がいたら問題でしょうに」 「え? どうして?」 メリーが目を丸くする。本気で分かっていない顔。 今度こそため息を吐いて、私はメリーに説明した。 「だって、そうでしょ。女子高の学生寮に、男がいたら別の意味で問題じゃない」 「あ――、そう、そうね。私ったらうっかりしてたわ」 そう、メリーが殺人現場を見たという建物。 そこは、近くにあるエスカレーター式の女子高の、専用の女子学寮だ。私は登校組だったし、メリーも編入組なので、“高校の女子寮”とやらを経験したことはないが、それでもそれがどんな処くらいかは想像できる。 “閉鎖的な乙女の楽園”。またの名をカゴの鳥。 男の立ち入りが禁止なことくらい、小学生でもわかる。 そして、もう一つ分かっていること。 女学校の、女子寮――そこが、徹底的に閉鎖的だということだ。年代の離れた私たちに、簡単に情報が伝わってこない程度には。 「それが本当なら、陰謀の匂いがするわね」 「陰謀?」 「そう、陰謀。山奥じゃあるまいし、普通すぐに事件がおきたことは発覚するでしょ? なのに、今朝の新聞には、事件のことなんて何も載ってなかった」 「つまり……まだ犯行が見つかっていないということかしら?」 「違う違う、つまりね」 メリーの的外れな回答を、私は優しく訂正する。 「女子寮の人間がグルになって、事件を隠してるかもしれない、っていうこと」 「! それって、集団的陰謀じゃない」 「そうね、まさにその通りよ。もちろん、誰も気づいていない可能性も……まあ、ないとは言わないけど、限りなく少ないでしょうね」 「でも……それって意味が無いんじゃないかしら?」 「どうして?」 私の問いに、メリーは少し考え込む。なぜか、はもう頭の中で出来ているのだが、それをうまく言葉にできない、そんな感じだ。 メリーは言葉を探しながら言う。 「えっとね……ほら、だって、見つかるんじゃないかしら? 寮の全員が荷担してるとは思えないし、学校に生徒が来なかったら、不審に思う人がいるんじゃないかしら?」 真実を鋭く突いたその言葉に、私は口笛を吹きたくなった。 たしかにその通りだ。もし本当に陰謀が起きているとしても、それは数人単位だろう。女子寮の寮長と、ルームメイトと、数名の友人――どんなに多くてもそのくらいだろう。 そして、それも長続きするようなものではない。いつかはばれる。その少女が死んでしまったことは。 ならどうするか? 誤魔化せるのは短い間だけだ。 メリーの言う通り、それは意味がないことなのかもしれない。 けれど、『違う意味を与える』としたら別だ。 「メリー。貴方の意見は正しいわ。けどね、例えばこれならどう? 『女の子が一人、寮を抜け出して駆け落ちしました』」 「あ――」 私の言いたいことに、メリーはすぐに気づいたらしい。口をぽかんと開けて、感嘆の言葉を漏らす。 ちょっとした優越感に浸りながら、私は言葉を続けた。 「別に駆け落ちじゃなくても、家出でもいい。事故でも行方不明でもいい。とにかく、『犯人が居ない』状況を作り出せるならそれでいいのよ。女子寮の閉鎖的な環境なら、それが可能でしょうね」 まあ、本当にそうだと、私も思ってはない。これはあくまで素人推理だ。突き詰めていけば矛盾する点など山のように出てくるだろう。 同時に、真相はもっと深いものかもしれない。 封じられ、秘されているものは、暴き、見るその時まで、全く分からないのだ。 「そのためには、」 「目撃者がいては無理、ね。……図らずともメリーの言うとおり、殺されるかもしれないわね」 半分くらい冗句のつもりで(残り半分は真剣だった)言った言葉に、メリーの顔が青くなる。 メリーを不安にさせるために言ったのではなかった。私は少し反省して、言葉を付け加えた。 「けど、まあ大丈夫よ。人を殺すのって、そんなに簡単なことでもない上にバレやすいし。いきなり乱暴な手段をとったりはしないわよ」 それを聞いて、メリーはほっと溜め息を吐いた。 安心できるならそれに越したことはない。私だって、自分が言った説を一割も信じていなかった。そういうこともありえる、というただの仮説だ。一番あり得るのは、まだ発見されてなくて、『今日はあの子はお休みかしら?』と学校で先生が首を傾げていることだろう。その場合、今丁度この瞬間か、あるいは数時間以内に死体が発見されるに違いない。 そう伝えると、メリーはさらに安心して頬を緩めた。いつもの、優しい微笑みだった。 「それで、どうしましょう?」 「決まってるじゃない」 私は人差し指をピンと立て、不適に笑いながら、メリーに言う。 「事件を調べに行くわよ。――秘封倶楽部の活動としてね」 秘封倶楽部は探偵倶楽部ではない。 けれど、その両者に、似通った部分は確かに存在する。探偵は犯人を捕まえるために存在するのではない。隠された秘密を、真実を暴き出し、事件を解決するために存在するのだ。 封じられた秘を探るという一点においては、秘封倶楽部と探偵倶楽部は、ほとんど同一の存在だ。 なら――私たち秘封倶楽部が、探偵の真似事をしても、おかしくはないだろう。 それに秘封倶楽部は、オカルトサークルだ。霊能力的なことは何もせず、境界の向こう側を覗いて回ることを主な活動にしている。 オカルトは元はラテン語で『隠された』ことを語源とする。広い意味で解釈するのなら、これもまた立派なサークル活動だ。殺人事件という、日常と非日常の境界の向こう側を覗き見るのも、たまには良いだろう。 ……なんだかんだと理屈をつけたところで、単に私が興味津々に事件を突っ込みたいだけということに変わりはないのだけれど。 好奇心は猫を殺すが、好奇心を奪われたら少女は死ぬのだ! というわけで、私は好奇心のままに椅子を立ち上がった。 「まずは聞き込みよ! いったい事件がどの程度まで広がってるのか調べる。そこから始めるわよ」 「仕方ないわね、もう!」 メリーも言って立ち上がる。言葉とは裏腹に、メリーの口調もやる気に満ちていた。 当たり前だ。私たちにとって最大の生きがいは、『秘封倶楽部』という素敵な活動なのだから! 事件を調査し、秘密を暴く。 簡単にできることではないだろう。何も出来ないままに終わるかもしれない。無駄な時間を過ごすことになるかもしれない。 それが、私たちの行動を止める理由には、なりはしなかったけれど。 一人なら無理かもしれない。けれど、私たちは二人で、その上秘封倶楽部なのだ。 できないことなど、一つとしてないだろう! 「ご馳走さま」 「また来ますわ」 マスターにお礼の言葉をお金を払い、私たちは店を出る。 外は相変わらずの豪雨。一寸先も見えないほどの土砂降り。遠くでは雷が鳴っている。 そのどれもが、私たちを、秘封倶楽部の活動を、邪魔することなどできなしなかった。 雨の中、私とメリーは、二人並んで女学校前へと向かった―― 紅茶の味と、ラベンダーの香りが、かすかに鼻に残っていた。 ◆ ◆ ◆ ××月××日 晴れのち曇り この前の喫茶店に、彼女と二人でいった。 しかも、今度は彼女の方から誘ってきたのだ! いったいどういうことだろう? わからなかった。 いつも、私の方から引きずり回す形なのに。 けど、分からなくても気にならなかった。 彼女の方から誘ってくれた、そのことが何より嬉しかったから。 「美味しい?」彼女は胸の前で手を組んで、私にそう訊いてきた。 私はうん、って答えると、彼女は嬉しそうに笑った。 まるで、自分が作ったものを披露したみたいに。 嬉しそうに笑う彼女を見ているだけで、私も嬉しくなったから。 その日の支払いは、彼女が全部してくれた。 私がお金を出そうとすると、 「いいのよ。今日は私が誘ったんだから」 と言って、さっと払ってしまったのだ。 嫌味の無い大人びた仕草。そういった彼女の態度が、私は好きだった。 けど――どうしてだろう。 彼女が、少しだけ、寂しそうに見えたのは。 ◆ ◆ ◆ ……私たちがの聞き込みを終え、女学校前を立ち去る頃には、すでに夕陽が沈みかける時刻になっていた。 雨は相変わらず降り続いている。視界が悪くなるほどの豪雨だ。遠くと近くで、雷すら鳴っていた。春の雷とはまた優雅なものだ――なんて思っていられるのは、家で紅茶を飲みながら窓の外を見ているときだけである。近くで鳴っていたら、風情以前に怖い。 雨と雲のせいで、空には月も星も太陽も見えない。本当に今、雲の向こうで太陽が沈みかけているのか、そんなことすら解らない。能力が使えないというのは、少しだけ不安だ。自分の中の一部分が欠けているような気さえした。 「蓮子、蓮子、蓮子――」 「なーに、メリー」 メリーの言葉を無視していたわけじゃない。雨の音が激しくて、声が聞き取りづらかったのだ。今私たちがいるのは、歩道橋の下だった。傘を畳んでの雨宿り。けれど、雨は弱くなるどころか、ますますその勢いを増していた。 いつもの喫茶店に戻ろうか。それとも今日は帰ろうか。どうしようか悩みながら、私たちは並んで突っ立っていたのだ。 帰る気は、もちろんなかった。秘封倶楽部の活動はまだ始まったばかりだ(倶楽部の性質上、活動はたいてい夜になる。私の能力が、夜の方が発揮しやすいからだ)。 それに、事件に関する奇妙な感触が、私の腹の奥底に降り積もっていた。 「結局、どういうことなのかしら?」 それは、メリーも同感だったらしい。小さく首をかしげて、不思議そうな顔をしている。 どういうことかしら、というメリーの率直な問い。それはもちろん、 「なんで騒ぎになってないか、ってこと?」 「それ以外に何かあるのかしら?」 「あるわよ、勿論。まあそういうのを全て総括して『どういうことなの』なんでしょうけど」 「そう、そうよ! それで、蓮子はどう思ってるのかしら?」 メリーの問いに、私は少し考え込む。 実のところ、幾つか頭の中に仮定は出来ていた。少しばかり愉快でない仮定から、最悪過ぎる仮定に、ジョークのような仮定まで。けれどどれも仮定に過ぎなかった。あくまでも私の頭の中にある仮説であり、それが本当かどうかは、調べてみないことには判らなかった。 しかし、秘封倶楽部の活動は、調べることではない。調査というよりは、首を突っ込むのが主な活動だ。 頭の中で仮定をまとめる時間を稼ぐために、私はメリーに質問を返した。 「メリーはどう思う? 一応見たのは貴方なわけだし」 「えっと……」 メリーは少し口ごもり、右に左に視線をさまよわせた。何かを考えている、というのが物凄く判りやすい。全ての問題が、このくらいわかりやすければいいのに! と思わずにはいられない。 メリーの視線が私に戻ってくるまで、実に三十二秒もかかった。律儀に数えていた私も私だが、三十二秒も考えていたメリーもメリーだ。さぞかしすごい仮説を考え付いたに違いない。 そんな私の期待を、メリーはただのひと言で裏切った。 「私が見たのは全部夢だった、とか」 ……私がその場ですっこけなかったのは、まさに奇跡と言えよう。 あんまりといえばあんまりすぎる仮説だった。その上、メリーの能力を考えれば、簡単に妄言だと切り捨てるわけにもいかないのだ。ここまで引っ張ってきて夢オチは、いくらなんでも酷すぎる。 微妙に自信ありげな微笑みを浮かべるメリーの方を向いて、私は答えた。 「それは素敵な理論ねメリー。科学のサイモン教授に話してみたら? 『キミ、キミ、キミ! それは夢とは違うのだよキミ!』のありがたい言葉と一緒に追試をプレゼントしてくれるわよ」 私の皮肉たっぷりの、教授の口調を真似た言葉に、メリーは露骨に顔をしかめた。あの教授からすればメリーは不思議ちゃんでしかなく、メリーからすれば教授はお堅いオジサンだ。相性が悪いのも無理はない。 厭そうな顔をしているメリーを見つつ、私は話を続ける。 「それもまあ、悪くはない説だけど……否定材料がちゃんとあるわ」 「否定材料?」 「そう。さっき話しかけた子たちの中に、何人か反応した子がいたわ。『殺人』の言葉に」 話しながら、私は頭の中で思い返す。さっきまでの出来事を。 たいていの女生徒たちは、私たちの言葉に首を傾げるだけだった。好奇心が強い子は、逆に私たちに尋ね返してきた。話しかけるなり逃げる子もいた。 けれど、その中に混じって、不審な動きをする子が、何人かいたのだ。『女子寮で起きた殺人』の話を聞いて、一瞬だけ身体をすくませたり、視線がそれる子が。その子たちは決まって“そんなことは知りません”と言って足早に立ち去っていった。 あれでは、何かあると言っているようなものだった。 私はそう説明すると、メリーはしきりにうなずいて「なるほどね。蓮子はよく見てるわね」と感心した。私からしてみれば、メリーは一体何を見ていたんだという話だ。ひょっとして、馬鹿正直に『昨日クラスメイトのペケ子ちゃんがペケ美ちゃんを殺したのよ』とでも言うと思っていたのだろうか。 メリーのことだから、有り得なくもない。 「何かはあるのよ。それが何かは具体的にはわからないけど――殺人に関するような何かが、しかもごく一部の生徒しか知らないような何かが、あの女子寮では起こったのよ」 それはもう推測ではなく、私の中では確信になっていた。 女子寮で起こった秘密の事件! 同じ生徒にすら隠された、誰も知らない殺人! 高い壁の向こう側、境界線の向こう側で起こった謎の事件! 私でなくとも好奇心を刺激される単語だった。いったい、どんな秘密が隠されているのだろう? 怨恨か、愛情か? それとも偶然的な事故か、あるいは学校全体を巻き込む陰謀か? ……秘封倶楽部がオカルトサークルでなく探偵倶楽部なら、私はいますぐパイプを咥えて推理を始めただろう。あるいは、新聞記者なら、カメラとペンを持って女子寮に突入しただろう。 だが、私たちは、秘封倶楽部だった。秘封倶楽部はオカルトサークルであり(オカルト的な実験など何一つしていないとはいえ!)境界の向こう側を見る集団だった。 謎を解決することも、謎を他人に暴き立てることもしない。 謎を見ること。神秘に触れること。それこそが秘封倶楽部なのだ。 ……だからこそ、メリーが次に発した言葉は、当然の疑問であるとも言えた。 「それで――どうしましょう?」 答えあぐねた。どうしましょう、と言われて、すぐに返せるだけの言葉を私は持っていなかったのだ。 メリーの見たものが正しいであろうということは判った。殺されるかもしれない、というのが(いくら思考が発展しすぎているとはいえ)あながちジョークではないことも判った。 判ったのだが、それから先、何をすればいいのかは判らない。 「とりあえず――」 と私は言いながら、頭の中で選択肢を二つまで絞り込んでいた。 素直に警察に届けに行くか、これを秘封倶楽部の活動の一環とするかだ。 口から出た言葉は、後者を選んでいた。 「いつもの喫茶店で、のんびり考えることにしますか」 「そうね、それがいいわ」 メリーも微笑んで賛同し、傘を広げた。私も同じように傘を広げて、踵を返し、歩道橋の下から雨粒の下へと出る。メリーも私の後ろに続いた。 ……そして次の瞬間、私の発言が、どんなに甘いものかを思い知った。 歩道橋の影から出た先の横断歩道。信号は青を示していた。雨が強いせいか、私たち以外の横断車はいなかった。 渡ろう――私はそう思い、横断歩道に足を踏み出しかけ、 その瞬間に、雷が落ちた。 私の見る前で、はっきりと稲妻が地上へと落ちるのが見えた。 轟音と光に私は思わず足を止め、 その瞬間に、私の目の前を、猛スピードでバイクが過ぎ去った。 ……ごく正直な感想を言おう。 ――死ぬかと思った。 いや、思った、どころの話ではない。もし雷に驚いて足を止めなければ、私は間違いなく轢かれていた。あのスピードで轢かれれば迷うことなく天国へ行けるに違いない。 呆然としながら、それでも私はバイクの過ぎ去った方を見た。 残念なことに、ナンバープレートは見えなかった――代わりに、運転手の姿が見えた。 皮製のライダースーツごしにも、運転手が女性だということは、はっきり見えた。 その上(ひょっとしたら動転した私の気のせいだったのかも知れないが)運転手は、一瞬だけ、私の方をちらりと振り返ったのだ! まるで、残念轢き殺せなかった、とでも言いたげに! そうでなければ運転を止めて私に謝りにくるのが筋だろう。 「蓮子、今の……っ!」 メリーの慌てた声。その声を聞いて、どこか他人事のように考えていた私は、ようやく事態を把握した。 私はたった今、殺されかけたのだ! 事故か故意かは置いとくとしても、だ。 顔を上げて信号を見る。信号は、未だに青だった。 ――とても、事故とは思えなかった。 私の渡ろうとした道は、交差点ではない。一本道を横断するように設置された横断歩道だ。つまり、あのバイクは、赤にも関わらず一直線に(しかも、道路の真ん中ではなく、端を!)走りこんできたのだ。 その瞬間、私の頭の中に浮かんだ仮説は、最悪に最悪を重ねたようなものだった。 ――学生寮で不審な聞き込みをしている二人組がいた。そのうちの一人は、昨日のアレを見たと思しき少女だった。女子寮に巣食う暗黒団体はそれを知り、秘密を守るために追っ手を仕向けた。雨の中で事故死に見せかけて口をふさぐために。そして、失敗したことを悟った襲撃者は、次なる手を打ってくるのだ。秘密を守るために。私とメリーを殺すために。 突拍子もない、まるで映画のような発想だった。 けれど、殺されかけた直後なら、それがどんな突拍子のないことであろうとも信じられた。 人を殺すのって、そんなに簡単なことでもない上にバレやすいし。 私は数時間前にそう言った。 確かに人を殺すのは簡単でもないし、バレやすい。 けれど――それが事故だとしたら? 殺人ではなく、ただの事故であるとしたら? 事故に見せかけたものだとしたら? 『のんびり』などしている暇なんてなかった! こんな大雨だ、偶然事故が起こるくらい有り得る。事故に見せかけてひき逃げされることくらいあるかもしれない。昔読んだ本によれば、偶発的ではない意図的なひき逃げほど捕まえにくいものはないらしい。 ここにいるのはまずい、と私はとっさに判断を下した。 後ろを振り返り、真っ青な顔のメリーを見て、私は言う。 「……逃げるわよ、メリー」 それはメリーも同じだったらしい。私の方を見て、こくこくとうなずいた。鬼や天狗に追いかけられるのは良くても、バイクや車に追いかけられるのは厭なのだろう。 私たちはまったく同じタイミングで走り出した。 スカートが少し濡れるが構っている暇はない。雨に濡れるのと命を落とすのなら、私は迷わず前者を選ぶ。変わり者のメリーが、後者を選ばなかったことには感謝するばかりだ! しかし――とっさのことすぎて、私たちは判断を間違えた。 逃げるのなら、大通りを逃げればよかったのだ。少し走れば警察署だってあるし、人ごみの中を歩けば見つかりにくい。こんな雨だ、色とりどりの傘の中に紛れ込めば、あっという間に追跡者は私たちの姿を見失っただろうに! しかし、ピンチの時に冷静な判断など下せるはずがない。 私たちは、よりにもよって、路地裏へと跳び込んだのだ! 道も知らない、細いわき道に! 人気のない方へと! 同時に、雷が鳴った。すぐ近くで。轟音と、稲光が、ほとんど同時にやってきた。 私かメリーの傘に落ちたんじゃないかと思うくらいに近かった。 それが私たちを狙う者の攻撃であるかのように思えてしまった。私たちは一瞬身をすくめ、それから再び全速力で走り出した。 奥へ、奥へと! 「どこまで逃げるのよ!」 「知らないわよ!」 私たちは叫びながら走り続けた。角を曲がり、走り、曲がり、走り、曲がり、走り。 後ろから誰かが追ってきているような気がして、振り返らずに一心不乱に走り続けた。 『ひょっとして私たちは迷っているんじゃ?』という疑問が頭の中に浮かんできたのは、辺りの光景がまったく見覚えのないものになってきた頃だった。 人家がない。代わりに木々がある。 白い壁の間を縫うようにして走っていたはずなのに、私たちはいつの間にか、木々で出来た道を走っていた。 「メリー、ここはどこよ!」 「知らないわよ! 蓮子こそ、居場所がわかるんじゃないの!?」 「そういうことは晴れの日に言って!」 もちろん、私たちの町に森がないわけではない。私は頭の中で地図を開いて(ああ、空に月がかかっていたら、こんな余計なことはしなくてすむのに!)今いる場所を考える。歩道橋と女子寮と横断歩道と逃げた方向、地図に見えない赤ペンでチェックを入れていく。 その作業は、結局のところ、意味をなさなかった。角を何回曲がったかなど覚えていないし、森のある方向へと走ったのだろうと見当がつくだけで、頭の中の地図には森の詳しい地形など載っていなかった。何より、今自分がどこにいるかわからない。ああ、本当に月が見えていれば! そして何より、私の苦労を一発で吹き飛ばしてくれる発言を、メリーがしてくれたのだ。 「蓮子、あそこ!」 メリーが指差す。私はその指先を視線で追う。 そこには店があった。古びた、昔の日本風のお店が。何屋かはわからないが、お店であることには間違いなかった。入り口の上に看板が掛かっていたからだ。 再び稲光。轟音と共に、辺りが金色に照らし出される。 一瞬だけ昼間よりも明るくなり、看板に書かれた文字が、はっきりと見えた。 看板には、筆文字でこう書かれていた。 『香霖堂』、と。 そのお店が今も営業中であることは、扉の窓から漏れる光が照明していた。 ノックをする間もなく、私たちは傘を畳みながらその店に文字通り飛び込んだ―― ◆ ◆ ◆ ×月××日 晴れのち曇り 一時雨 ……最近、彼女の様子がおかしい。 他の人から見れば、分からないだろう。 けれど、友人である私は、その違いにちゃんと気づいてた。 一。いままで以上に、私に優しい。 彼女はいつも優しいけれど、最近はとくにそうだった。 まるで、必死に良い思い出を作ろうとしているかのように。 二。時々、遠くを見るような表情をする。 会話が切れたときとか、ふと立ち止まったときとか。 彼女の意識が、遠いどこかへ行っているのを、私は見逃さなかった。 何を考えてるの、とは聞けなかった。 純粋に、怖くてだ。 彼女から返ってくる答えも、それによってこの関係が終わるのも、怖かった。 このぬるま湯のような、温かい日がいつまでも続いて欲しい。 そう思った。 そう、願った。 ◆ ◆ ◆ 「いらっしゃい」 私たちを迎えたのは、銃弾でもナイフでもなかった。店主の温かい声だった。 もしその声が『くく、ついに追い詰めたぜ。さあ観念しな』だったら、私はその場で意識を失っていただろう。失ったっきり二度と意識が戻ることはないだろうが、そっちの方が幸せだったに違いない。恐怖も痛みも感じずに、長い長い眠りにつけるのだから。 けれど、そんなことはなかった。 店の中で私たちを待ち受けていたのは、時間の積み重なった匂いのする、古びた品々だった。 香霖堂とは古道具屋なのだろう。もう少し置いてあるものが新しければ、質屋でも通用するかもしれない。 「お客さん……かな?」 店の奥。椅子に腰掛けた店主は、読んでいた本をぱたんと閉じて、そう言った。見事なまでの銀の髪と、銀縁の眼鏡。それから華美な和服を着た、どことなく妖しい雰囲気を持った男だった。 客以外が店にくるのか――と反射的に問いかけて、止めた。よく考えたら、私たちは客ではないのだ。ただ逃げ込んできただけなのだから。 正直にそう言うかどうか悩んだ。店主は悪人ではなさそうだったが、一筋縄でいきそうな人間にも見えなかったからだ。もし客でないと言ったら、出て行けと言われるかもしれない。 悩んだ末に、一番無難な答えを返した。 「ええ、まあ」 なんともあいまいな私の答えに、店主は「ならゆっくり見ていくといい」と答えた。ひょっとすると善人なのかもしれない。それとも、こういうことに慣れているのだろうか? 客以外の闖入者がくることに。 「お邪魔します〜」 明るい声で言って、メリーは傘を畳んだ。私も彼女に倣って傘を畳んだ。雨の中を走ってきたせいか、ぽたぽたと水が垂れ落ちてきた。一度傘を広げて水を払えばいいのだが、さすがに店内でそんなことはできない。扉の外に出るのはもっとごめんだった。 畳んだ傘を片手にもって、私はきょろきょろと玄関口を見回した。あるべきものがなかったからだ。 結局見つけることが出来ずに、店主に尋ねた。 「傘たては?」 「そこに無ければ、無いんだろうね」 要するに無いということだろう。なんて回りくどい店主だ。 そう悪態をつける程度の余裕が、今の私にあることが嬉しかった。外は相変わらず大雨だが、店の中は穏やかだった。雨音も雷も、今は遠い世界のものでしかない。 轢かれかけた出来事が、遠い昔のことにさえ思えた。 ――そう、私は轢かれかけたのだ。 そのことをようやく思い出す。逃げている間は働かなかった頭が、きゅるきゅると音を立てて動き出していた。 あれが事故か事件かはわからないが(もっとも、私はもうあれが事件であると心の中で断定していた)少なくとも轢かれかけたことだけは事実だ。 動き出したばかりの頭が選んだ行動は、もっとも単純なものだった。 一般の善良な市民がとるべき行動――警察に電話する、というものだ。 ポケットから携帯電話を取り出す。覚えるまでもない、短い三桁の番号。 押そうとして気づいた――アンテナは、一本も立っていなかった。 圏外だったのだ。 私はしぶしぶ携帯をしまい、手に持った本を読みたそうにしている店主に訊ねた。 「電話、あります?」 「電話かい? ちょっと待って、」 店主は答えて、足元にある棚をごそごそとあさりだした。 ものすごい厭な予感がした。普通、使う電話をあんなところに仕舞ったりはしない。 「ああ、あったあった。これでいいかい」 店主が取り出したのは、確かに電話だった。電話以外の何物でもなかった。 黒く無骨なフォルム。プッシュ式ではなくダイヤル式。古い、今では骨董屋か田舎でしか見ないような、黒電話だった。 おまけに、電話線はぶらりと垂れ下がるばかりで、どこにも繋がっていなかった。 厭な予感は、見事に的中したのだ。 「……お気に召さなかったかい?」 私のじと目に気づいた店主が、不安そうに言った。 どっと疲れがきた。 が、疲れが来るということは、緊張が解けたということでもある。事実、私の頭は、ようやく人並みに動くようになっていた。 「いえ、私が言いたいことはですね。電話をお貸しして欲しいということなんです」 「ああ、そういうことかい。……残念だけど、この店に電話は繋がってないよ」 「繋がってない!?」 思わず荒げてしまった私に、店主は淡々と答えた。 「必要ないからね」 必要ない――いともあっさりと店主はそう言ってのけた。 本気で商売をする気があるのか疑ってしまう。電話がないお店など初めて見た。本当に商売が成り立っているのだろうか? いや、成り立たせる気はないのかもしれない。いいところの次男坊(には見えなかったけれど)が、趣味でやっているお店なのかもしれない。店にある品々は統一感がなく、とにかく物と本を詰め込んだという印象があった。趣味、という言葉がぴったりくる。 そもそも、ここは本当に古道具屋なのか。そんな今更な疑問が、私の頭に浮かび上がってきた。看板には『香霖堂』としか書かれていなかったし、店主はひと言もこの店が古道具屋だとは言っていない。いらっしゃい、お客かな。それしか言っていないはずだ。 私は恐る恐る尋ねた。 アンティーク ・ ショップ 「このお店は――古 道 具 屋?」 店主は、こともなげに答えた。 たからのやま 「古 道 具 屋 だよ」 その二つの間に、如何なる違うがあるのか、私にはとんと判らなかった。なんとなく判ったのは、ここにある品々は売り物というよりは、店主の趣味による宝物なのだということだ。 店主の言葉に嘘はなかった。たしかにそこは、宝の山だ。見る者によっては、だけれど。 近代性を追求する人には判らない美しさが、現実と世間を混合している人には判らない素晴らしい神秘がそこにはあった。 見たことのないもの、見ても使い方の判らない物、とうの昔になくなってしまったはずの物が、店内に所狭しと並べられていた。 「見て見て蓮子、凄いわよこれ」 店に来たときからずっと黙って品物を眺めていたメリーが、ぱたぱたと足音を立てて近寄ってきた。私は振り返ってメリーを見る。 その手には、商品と思しき置時計。 「ば……っ!! メリー、こういうのは勝手に触ったらいけないの!」 「え〜? そうかしら?」 不満げに頬を膨らませるメリー。 が、私は前言を撤回する気はなかった。こういう大切にしまってある古い道具には勝手に触ってはいけない。どんな危険が待ち受けているか判らないからだ。 呪われた本を触れば、本の中に吸い込まれてしまうかもしれない。ブードゥーの薬瓶を触れば毒が感染するだろう。そうでなくても、うっかり触って壊してしまった日には、謝るだけでは許されるはずがない! が、店主はあっさりと、 「あぁ、別に構わないよ」 なんて、言ってのけた。 「へ?」 「触っても構わないよ。こういう品々は、手にとってよく見ないとわからないからね。ついでに買ってくれると嬉しい」 「あら、ありがとう!」 メリーは嬉しそうに礼を言った。 私は何となく面白くなかった。店主が何を考えているのか、メガネと微笑に隠されて判らなかったからだ。この男は、よほどタヌキの商売人か、さもなければとてつもない善人に違いない。多分、後者だろうけど。 私は頭の中にある人物評の欄に、“要注意。ただし危険はなし”と書き込んでからメリーへと向き直った。 「メリー。置時計がどうしたって?」 「そう、これ凄いのよ! ほら見て蓮子、ここここ」 嬉しそうな声とともに、メリーは手にもった置時計の、文字盤の部分を指差した。 目を凝らして、そこを見てみる。とくに何も異変はない。秒針は規則的に音をたて、時間を正確に刻んでいる。時計の針が逆回転したり、ものすごい勢いで動いたりはしていない。とくに変わったところは――いや、待って。 私はようやく、その時計の異常に気づいた。 長針が指し示している場所は、12時と、1時の間だった。十二時半、ではない。長針は真上を指し示していた。短針も六を示していたけれど、それは真下ではなかった。真下よりも少しだけ傾いていた。 文字盤の文字が狂っていることに、私は、すぐには気づかなかったのだ。 すなわち――時計の針は、十三時を示していたのだ! 「不良品?」 「違うわよ! 蓮子ったら夢も浪漫もないのね」 「冗談よ。これ、十三時になったら十三回鐘が鳴るの?」 「鳴るよ」 答えたのは店主だった。奥に座して動かないまま、ぽつりと呟くようにそう言った。店主ではなく、古い品々のどれかが答えたような、そんな錯覚を私は抱いてしまった。 十三回鳴る時計。 興味をそそられたが、不吉でもあった。そもそも、十三時があるということは、この時計は正確な時間など計れないに違いない。出来ることといえば、それこそ置物としての役割か、あるいは――何かもっと、不思議なことに違いない。 が、私は時間をはっきりと告げないものを欲しいとは思わない。もちろんそれは、私の能力に起因するものだ。正確な時間が判らないとなんとなく嫌だ、という癖みたいなものだ。 「私も何か見てみようかな」 「そうよ、そうするべきよ蓮子。せっかく素敵なお店に来たんですもの!」 メリーは嬉しそうに言って、置時計を棚に戻しに行った。 私もメリーから視線を外し、棚に並べられた商品を目でなぞっていく。 警察に連絡しよう――という気持ちは、もうすっかり無くなっていた。時間が止まってしまったようなこのお店の雰囲気で、慌てふためいた心は完全に平静を取り戻していた。よく考えてみれば、あのバイクが故意かどうかわからない(私は故意である可能性を捨ててはいなかったが、絶対、とは思えなくなっていた)。たとえあれが故意であったとしても、追跡者が本当にいたかどうかは不明だ。いたとしても、私たちは自分たちでさえ道がわからない場所を逃げ回ったのだ。追跡できているとは思わないし、出来ていたとしたらとっくに扉が蹴破られているはずである。 それになにより。 私は一般の善良な市民である前に、秘封倶楽部なのだ! しっかりしろ蓮子、私はそう自分に囁く。私たちは秘封倶楽部だ、秘密を覗き見る倶楽部だ! どんな危険も省みず、ウサギの穴に頭から飛び込んでいく、それが私たちだったはずだ! その私が秘密から逃げ回ってどうするというのだ。警察に連絡するということは、私たちは手を引く、という宣言のようなものだ。 一度逃げてしまえば、逃げ癖がついてしまう。この先、何かの時に――たとえば、本当に秘封倶楽部としての活動として、境界の向こう側に行くときに――『今度も逃げていいだろう』そう思ってしまうかもしれない。 私はそんなことを望まないし――メリーもまた、望みはしないだろう。 もし連絡するとしたら、本当にどうしようもなくなるか、秘密がすべて暴かれて、私たちにやることがなくなった時だ。 というわけで私は、心配するのを止めて物色に戻った。 棚には色々なものが置いてあった。古びた銀色の鍵、黄金色の砂が入った砂時計、太陽のような黄金色のリンゴ、三本の針がついた羅針盤、題字の書かれていない本、赤い鼻輪の一本下駄。 その中に一つ、私の興味関心を刺激するものがあった。 懐中時計。デザイン自体はごくありきたりなものだった。つまみが二つ付いた、蓋のない、鎖付きの懐中時計。 ありきたりではないのは、文字盤の中身だった。十三の数字があるのではない。 日にちの表示欄が存在したのだ。 今が何月何日の何時何分か。懐中時計はソレをはっきりと示していた。 まるで、私の能力のように。 「店主。これはお幾ら?」 気づいたときには、私はそう聞いていた。 店主は眼鏡の奥の瞳を細め、私が手に持つ懐中時計を凝視した。 しばらく店主が言いよどんでいたのは、きっと値段を決めていなかったからだろう。なんとなくそう感じた。 長々と考え込んで、店主は言った。 「君のその本と交換、というのはどうだい?」 「駄目」 私は即答した。 当たり前だ、これは本であると同時に私の日記だ。乙女の秘密の値段は、世界よりも高いのだ。時計と交換などできるはずもない。 店主も無理だと解ってて言ったのか、小さく肩をすくめて、すぐに訂正した。 「そうだね。じゃあ、××××でどうだい」 店主が告げた値段は、比較的常識的なものだった。 物があまり常識的なものではない分、その値段が適正かどうか、私にはよく解らなかった。が、こういう買い物というのは、自分が満足できるかどうか、その値段で買っていいと思うかどうか、だ。 その値段でなら安いものだ、と私は思った。 「蓮子、それ買うの?」 私の手元を覗き込んで、メリーが訊ねてくる。 すぐ隣にあるメリーの顔と――その奥にある窓、そこに見える雨景色を見ながら、私は答える。 「そうよ。雨の日不便だし。腕時計は嫌いだけど、こういうのなら持ってもいいかなって」 私が今まで時計を持たなかったのは、能力ゆえに持つ必要がなかったからだ。別に深いポリシーがあるわけでもない。単に買う機会がなかっただけだ。別に今じゃなくてもいいか、そう思ってずるずると買い逃していた。 ようするに、いい機会だったのだ。何かきっかけがなかったら私は時計を買わなかっただろうし、この先も時計がなくて困ることが多々あるかもしれない。 渡りに船、というのはこういうことを言うのだろう。いや、違ったっけ? まぁ、どちらでもいい。 つかつかと店主の側へと歩み寄り、指定されただけの金額を、私は全て小銭で払った。がま口の中の金額だけで足りたからだ。 「買うわ」 「毎度」 店主は私が突き出した数枚の小銭を見て、少しだけ訝しげな顔をした。いまさら売買拒否? と訝しんだが、店主はすぐに小銭を受け取り、棚の中へと閉まった。 お金を扱う手つきというよりは、大切な品物をしまう手つきだった。彼にとっては、お金すらも商品なのだろうか? 古物商という人間はよく分からない。 「これからどうするの?」 私の背中に向かって、メリーが問いかけてくる。 どうするの、か。私は少し悩み込んだ。あれから時間は経ったし、こうして買い物もした。いつまでもこの店にいるわけにもいかない。それ以上に、いつまでも受身でいるのは癪だった。逃げ回るだけでなく、こちらからも行動を起こしたい。 「とりあえず外に出て……行き先は、それから考えましょう」 語尾を濁したのは、店主の前で事件に関する話をしたくなかったからだ。下手に『殺人』などの単語に食いつかれると、面倒なことになりかねない。 「そうね、賛成」 メリーは言って、扉に立てかけてあった傘を手に取る。 その姿を見て、店主が口を開いた。 「ああ――使うなら、裏口があるよ」 店主は、店の奥、入ってきた扉と反対側を指差してそう言った。 ……そのとき、私が感じていたのは、驚きと感嘆が入り交じった複雑な感情だった。 店主は間違いなく、ある程度の事情を察してそう言ったのだ。傘を持っているのにノックもなしに店へと飛び込んできた少女。入るなり電話を借りようとこと。その他、私たちの仕草や、行動や、言動。 そういったものを逐一観察した上で、店主は言ったのだ。裏口からこっそり出れるよ、と。 細かい事情は(私たちが秘封倶楽部であったり、殺人を目撃して追いかけられているかもしれないということまでは)分かっていないとは思うけれど、それでも大した観察眼だ! 悔しいからしないけれど、拍手の一つも送りたいところだった。 「あら、ありがとうございます。お邪魔しましたわ」 メリーは素直に礼を言い、扉のノブから手を離し、私の隣を通って奥へと向かった。 その様を、私はぼうっと見つめていた。なんというか、メリーのたくましさといったら! この子なら、どんな世界、どんな状況でも強く生き延びていくに違いない。 店主の横まで行った辺りで立ち止まり、くるりと私の方を振り返って、 「……行かないの?」 「行くわよ」 私は答え、メリーとは反対側、入ってきた扉へと向かい、そこに立てかけておいた自分の傘を手に取った。 懐中時計はポケットの中へ。左手に本、右手に傘。頭には帽子。忘れものは何もない。 振り返り、裏口へと向かうことにする。私の視界には、裏口へとひょこひょこ歩くメリーと、店主が映っていた。 店主は、なぜか険しい顔をして、じっと私を見ていた。 「……何か?」 私の問いに、店主は答えなかった。 私を見てはいたが、私の存在が、店主の脳にはなかったのだろう。ぶつぶつと呟きながら、何かを考えている様子だった。私を見て、あるいは――私と、メリーを見て? 宇佐見 蓮子と、マエリベリー・ハーン。そのどちらかの姿が、存在が、彼の心の琴線に触ったのだろうか? 店主は、ふい、と顔を上げた。ぐるぐると回っていた思考がまとまったのだろう。 彼はじっと、今度こそ私を見て、私に向かって呟いた。 「……の少女に気をつけ……の仮説が正しけれ……あの妖……境界……」 「――何ですって?」 小声すぎて、よく聞き取れなかった。 なんとなく、意味深な単語が、いくつか聞き取れただけだ。 けれど――店主は、私の問いに、答えようとはしなかった。 自らの中で自己完結してしまったのか、それ以上、何も説明しようとはしなかったのだ。 「ご利用ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。……そう言ったのさ」 それだけを言って、店主は本に視線を落とした。 私のほうを見向きもしない。話はこれでおしまいだ。全身の雰囲気でそう語っていた。 釈然としないものを感じつつも、 「れーんーこー。行かないの〜?」 裏口から聞こえてくるメリーの声に急かされて、それ以上追求している暇はなかった。 「行くわよ!」 半分叫ぶように答え、私は踵を返す。 最後にちらりと後ろを振り返ると、店主はもう、私たちのことなど忘れたかのように本を読んでいた。 ――次来たときに問い詰めてやる。 そう心に固く誓いながら、私はメリーの側へと行く。 メリーはもう、扉を開け、傘を広げて待っていた。私も店内で半分ほど傘を広げ、頭の上に掲げていつでも広げれるようにする。 「行きましょうか」 ん、と小さくうなずいて答える。 扉の向こうへと、ひょい、とメリーは踏み出す。 メリーに続いて、私も外に出る。 相変わらず雨がざぁざぁと降り注ぎ――後ろ手に閉めた扉の音にかぶさって、近くで落ちた雷の轟音が響いてきた。 視界が、白く染まる―― |
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↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑ ◆あとがき◆ 長い話、前編だけでもそこそこに長いお話を読んでいただいてありがとうございます。 今回は三つにわけましたので、次は(中)こと[N/3]です。 作品の注釈 伏字は全て『××』で統一してあります。 GO TO {N/3} タ |
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