謡う少女と神隠し



 寂しいと、悲しいと思わない日は無かった。
 枯れ草と錆び乾いた匂いがする森の中で、赤く濁った世界の中で、誰もいない校庭で、一人
寂しく謡い続けた。謡わないと人の言葉を忘れてしまいそうだから。謡い続けないと、自分が
人であったことを忘れてしまいそうだったから。
 一年過ぎ、十年過ぎ、時間の流れが意味が意味を無くなっても、私は謡い続けた。
 謡い続けることしかできなかったから。
 謡っていれば、いつか声が誰かに届くと思っていたから。
 誰かが救ってくれるような気がしたから。


         ◆


 山の神様の怒りを静めるために――。
 そのために、私は山に奉じられた。
 あるいは、『神隠し』にあった。
 向こう側に連れて行かれ、向こう側の存在となった。
 けれど、世界は残酷だった。滑稽なくらいに。
 怪異となっても、私は『私』でしか無かった。
『あやめ』という人格は消えなかったのだから。
 それは多分、怪異たちの策略なんだろう。人の姿をして、人の言葉を喋り、人の気持ちを理
解できる存在のほうが、怪異を広げることができるから。
 ――なんて残酷なんだろう。
 いっそ、殺してくれればよかったのに。
 いっそ、正気を失わせてくれればよかったのに。
 そうすれば、寂しいだなんて思わなかったから。
 そうすれば、僅かな期待を抱いて一人で生き続けないですんだのに。


        ◆

 数十年の間、誰も来なかったというわけではない。
 何人かは、『人』は来たのだ。
 私の唄に惹かれて。
 私の声に魅入られて。
 私の姿に誘われて。
 誰も彼もが、『人』でなくなってしまった。

 誰かを巻き込むたびに心が痛んだ。
 それでも、謡い続けることは止めなかった。
 私には、それしか出来ないから。
 寂しくて、悲しくて、もう一度人間の世界の暖かさを感じたかったから。
 それすらも、怪異の思うつぼだと判っていても。


        ◆


 数十年の時を待った。
 街の姿も私の姿も変わらない。移り変わるのはそこに住む人たちだけだ。
 多くの人が育ち、旅立ち、何人かは怪異に巻き込まれて消えていく。
 その繰り返しだった。
 その全てを、私は謡いながら見つめていた。
 謡いながら、涙の出なくなった目で泣きながら、見ていることしかできなかった。
 救われるだなんて、そんなことあるはずないって、ずっと思ってた。


 ――あの人が来るまでは。


 ――一緒に来い、と彼は言った。
 嬉しかった。
 ――お前を待っていた、と彼は言った。
 嬉しかった。
 私がどういう存在か知っていてなお、彼は私を必要としてくれた。
 抱きしめて、人のぬくもりをくれた。人の世界を与えてくれた。
 嬉しかった。
 そして――悲しかった。
 彼がどんな人間だったとしても、『人』である限りは、必ず怪異に巻き込まれるから。
 彼もまた、幾多の人のように向こう側へ連れていってしまうだろう」
「ごめんなさい……」
 涙の出ない目で、私は泣き続け、謝り続けた。
 私に出来ることは、ひとつしかない。
 死なないこの身で、彼が死ぬときまで、彼の望みを叶え続けること。



 ――だからせめて。
 今はただ、つかの間の幸せに浸らせてください。
 神隠しにあう、その日まで。


あとがき。
Missing 初作品。
この作品で誰が好きって、あやめと魔王陛下のコンビです。最高。
この二人に関しては書き続けたいかも。
桜のように美しい狂気――と作者がいうのもわかる気がします。
それを書ける様になりたいなあ……。というか、ならなくては。
ちなみに二番目にすきなのは魔女と魔法使い。同じく最高。


↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。

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