源太夫の青蓮




 進め。進め。ただ西方へ。
 阿弥陀仏は西におわす。
 幾多の藪を踏み越え、草履はすでに襤褸となり、裸足の脚は血の草履を吐いている。
 それでも痛い実は殺生の痛み。我が滅した人の痛み。ただ浄土を目指すのみ。


          ◆


 もう、立ち止まることはない――と村神俊也思う。


 以前は、立ち止まっていた。
 迷い、戸惑い、逸れ、彷徨い、進むことも退くことも叶わなかった。
 獣犬と呼ばれていた頃は。
 守りたいものがあった。
 失いたくないものがあった。
 だからこそ、前にも後にも行くことが出来なかった。
 大切なモノに縛られて、生き方を制限されていた。


 それは悪いことではない――とも思う。


 きっとそれは大切なものだ。
 きっとそれは必要なものだ。
 ヒトが人間として生きるために、無くてはならない考え方だ。
 それを亡くしてしまえば、ヒトは人間ではなくなってしまう。
 魔女しかり。
 魔王しかり。
 魔女団しかり。
 そして――狼人。
 人間をやめたヒトは、異界に、森に還ってしまう。
 街から、人間の世界から立ち去ってしまう。


 それは悪いことではない――とも思う。


 それは異端であり、異質であることだ。
 人間の理から外れてしまったことだ。
 そのことを悔やむつもりは、無い。
 何にも縛られなくなった今、恐れるものは何も無い。
 魔女も怪異も食い殺して、ただひたすらに歩き続けるだけだ。


 どこに――? ――それは解らない。


 確かに今、立ち止まることはなくなった。
 ただひたすらに、歩き続けている。
 進み続けて、生き続けている。
 それが何故かといわれても、果たして何処へと聞かれても、答えることはできない。
 そんなことは、知ったことではないからだ。
 そんなことは、考えるべきことではないからだ。
 本能のままに走り続ける。
 立ち止まることは、死ぬことだと――終わることだと理解したから。
 思い出してしまったから。
 死ぬことを。
 終わることを。
 だから、村神俊也は立ち止まらない。


 そう――源太夫のように。


 源太夫は歩き続けた。西へ。阿弥陀仏を目指して。極楽浄土を目指して。
 その道は荊だらけで、草履は襤褸になり、足は血まみれ傷まみれになってしまったけれど。
 それでも源太夫は立ち止まらない。
 殺生を繰り返し。
 そのたびに痛みを増やし。
 それでも源太夫は立ち止まらない。
 浄土を目指して走り続ける。


 俺もそう在ろう――と村神俊也は思う。


 進め。進め。ただ先へ。
 人界の魔王は隣におわす。
 幾多の怪異を踏み越え、心はすでに異界へ放ち、ヒトの心は血と怪異に塗れている。
 それでも止まらぬは其の生き様。狼人としての生き様。
 ただ先を目指すのみ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あとがき。
ミッシング小説・村神俊也の物語でした。


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 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。

源太夫の青蓮を書いたのは村神だから、これで正しい……のかな。
そうなると……武巳が不憫だ。
無題を書いたのは武巳なのになあ……。
というか、次はフェアリーか追放とか書いておいて、いきなり源太夫です。
多分次はいきなり神隠しに走ります。
うっわちょう不定。
そろそろリクエストどおりに亜紀を書きたいと思います。
でもなあ……亜紀は難しいんだよなあ……。
修練鍛錬自己訓練。頑張ろう。
では。では。

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