真夜中の徘徊者



 その子供は、夜を見ていた。
 少女は夜が好きだった。もちろん昼も、朝焼けも、夕暮時も好きだったけど、夜が一番好きだった。
 少女の周りのヒトは、夜が怖いと言う。
 夜ばかりではない。闇まで怖いと言う。
 その理由が、少女にはついぞ解らなかった。
 夜はこんなに優しいのに。
 闇はこんなに温かいのに。
 世界はこんなのも愉しいのに。
 それを否定するヒトの気持ちが、少女には解らなかった。
 だから、十歳になったその日、少女はこっそりと旅に出た。
 幼い魔女――十叶詠子は、夜の世界に踏み出した。


          ◆


 詠子は夜が好きだったけれど、夜の街を一人で歩いたことは無かった。
 危ないから外にでてはいけません、というのが両親の言葉だった。
 それは嘘だ、と思った。
 街燈の影から見守ってくれているヒトがいる。影のヒトは事故から守ってくれる。口笛を吹くヒトは、普通の人を遠くへ連れて行ってしまう。
 だから詠子は常に一人で、けれど独りではなかった。
 彼女にしか見えない、けれども確かに存在するヒトたちで賑やかだった。
 彼らは昼の世界にもいる。太陽の下であることもある。
 けれどもその数は少ない。人がたくさんいるところには、彼らは姿を見せない。
 ふと一人になったときに、側に佇むことはあっても。
 それに比べて夜は溢れている。
 人がお化けというヒトたちは、夜の街を愉しそうに歩いている。
 月のおかげだ、と詠子は思う。
 太陽の光は温かいけど、強すぎるから。
 このヒトたちは、月の柔らかい光が好きなのだと、詠子はそう思うのだ。
「ねぇ、愉しい?」
 詠子は傍らにいる大きなヒトに訊く。
 返事は無いかな、と思ったけど、そのヒトは答えてくれた。
 ――うん、とっても。
「どこが愉しいの?」
 ――ぼく、きみにみられてる。きみをみてる。ここにいられる。たのしい。
「……そうなの」
 そのヒトの言っていることは、なんとなくしかわからなかった。
 なんとなくでも、充分なのかもしれない。
 顔のないヒトは、とても愉しそうだったから。
 詠子は大きなヒトから視線を外して、誰もいない街の誰もいない道を歩く。
 何の音もしない。
 人の声も、家の音も、虫の音も、何も無い。まったくの無音。
 静かで、心地よい世界。
 ここだ、と詠子は思う。
 父も母も、親戚もクラスの人間も好きだけれど。
 ここは、居心地がいいのだ。
 こここそが、自分のいるべき場所だと、幼い詠子は思った。
 肉のついていない、棒のように細い足で詠子は歩く。
「私のあしは魔女のあし。 やみよを駆ける魔女のあし」
 歩きながら、白く細い指先で、詠子はレンガを撫でる。
「私のゆびは魔女のゆび。かげをつかむか魔女のゆび」
 魔女のあしが歩むたびに――
 魔女のゆびが触るたびに――
 ふるり、ふるり、ふるふると。
 はらり、はらり、はらはらと。
 影の中からは影のヒトたちが。
 闇の中からは闇のヒトたちが。
 踏んだところに命が生まれて。
 触れたところに命が生まれて。
 生まれた命は跳んでまわって。
 嬉しそうに、はしゃいで遊ぶ。
 十叶詠子の歩みは止まらない。
 十叶詠子の指先は止まらない。
 十叶詠子の言葉は止まらない。
「私のひとみは、魔女のひとみ。
 かたちを与える魔女のひとみ。
 私のことばは、魔女のことば。
 なまえを与える魔女のことば」
 視線は光となって世界を往く。
 風に乗って言葉は流れ駆ける。
 身られた影は形作り姿を成す。
 影からヒトへと。ヒト形へと。
 名前を与えられたモノは変る。
 物語られる唯一つのモノへと。
 ヒト型になった影は影を誘い、
 誘われた影はまたヒトに成る。
 詠子の視線が届くかぎり――
 詠子の言葉が届くかぎり――
 ヒトの数は留まることはない。
 それはサバト。拙い魔女の会。
 それはサバト。幼い魔女の会。
 幼い魔女が創り上げたサバト。
 十叶詠子が創り上げたサバト。
 詠子は満足げに彼らを見回す。
 彼らは満足げに詠子を見詰る。
 ダレもいない。人間はいない。
 幼き魔女と、ただヒトばかり。
 サバトは続く。静かに愉しく。
 サバトは続く。延々永遠々と。
 夜が終わらないかぎりは続く。
 朝日が出てくる時までは続く。
 サバトは、終わることはない。
 サバトは、終わることはない。
 十叶詠子は笑う。愉しそうに。
 十叶詠子は笑う。幸せそうに。
 


 月だけが、彼女らを見ていた。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あとがき。
ミッシング小説・十叶詠子の物語でした。


↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。

十叶詠子、レギュラー昇進おめでとうございます(挨拶)
これにて、魔女殿はあやめと同率首位に。
連作でない物語が魔女しましたから。

後半の文字遊び、成功していたら幸い。
こういうの、小説だけの遊びだよなあ……と思います。
サバトらしさが出てたらなあ……と。
幼少の十叶詠子は見てみたいですが。
……MISSING小学生組でも書くか。
でもそしたら、登場人物空目と俊也と魔女だけか……どうしよう。

幼い魔女が魔女であることを自覚する物語でした。
WEB拍手くれたお方々、いかがでしたでしょうか。
気に入っていただけたら幸い。

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