1 絵描きと追憶者
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 それは日常の一幕。
 特別なことでもなんでもなく、不思議なことなんてなにもなく、幻想なんて存在せず、幻覚すら見ず、幻惑されることもなく、異なるものなんて何もない、怪なるものは存在しない、真昼の校舎での、出来事とすら言えない様な、わずかな一幕。
 夕暮れ時でも夜中でもない、真昼間の廊下を、 絵描き――八純啓は歩いていた。
 目的はいたって単純、次の授業を受けにいっているだけだ。
 怪異は関係ない、日常的な行動。
 廊下は活気に満ちていた。授業と授業の間は、基本的に生徒たちでにぎわっている。次の授業の用意をするもの、限られた時間で遊ぶもの、移動教室へと向かうもの、一足速く食堂へと向かうもの。
 そんな日常世界の中、日常行動を八純は取る。
 怪異は存在しない。
 昼間に彼らの姿を見ることは、ほとんどない。
 八純は、たまに思う。
 ひょっとすると。
 ひょっとすると――人間というのは、異界すべてよりも強いのではないのだろうか。
 単純な生存能力として――郡体としての人間は、強いのではないのだろうか。
 たしかに、一人一人は弱い。恐怖にかられて、あっけなく怪異に飲み込まれる。
 ねたみ、そねみ、うらみにつらみ。そんな感情が、怪異を簡単に呼び寄せる。
 一人の人間は、異界にさらわれる。

 けれど。

 それが集団となると、話は別だ。
 人間はつねに《敵》を駆逐してきた。それは怪異とて例外ではない。
 確かに、街の片隅に怪異は残っている。学校の怪談が無くなることはない。

 けれど。

 それを心の底から信じている人間など、いったいどれほどいるというのだろうか? 《本物》の怪異を、本物として扱う人間などいるのだろうか。忌憚書はゴミ箱に棄てられて誰もよまないのではないか。
 人間に圧倒され、怪異たちが姿を見せない昼間時、八純はふとそんなことを思うのだ。

 例えば。

 人間が徒党を組んで敵を倒してきたように。
 異界を刈る集団というのも、ひょっとしたら存在するのではないだろうか――
 そんな夢物語に出てくるようなことさえ、最近は信じてしまう。
 怪異がいるのだから。
 敵対する《人間》たちがいてもおかしくはないだろう。

 ならば。

「僕はいったい、どちら側なんだろうね……」
 誰にともなく八純は呟く。
 怪異を描く絵描き。
 果たして、その立ち位置は。
 怪異の傍なのか。
 それとも、彼らを虐殺する《人間》の側なのか。
 わからない。
 ただ、どちらでもありえることは、自覚していた。

 そして。

「《彼》は、どちら側なんだろうね……」
 そう呟いて、八純は前を見る。
 反対側から、一人の少年が歩いていた。
 外見に特に特徴のない、どこにでもいそうな少年だった。
 どこかで見た事はあった。
「君」
 ……それが、《彼》と一緒にいる少年だと気付いた瞬間、八純は話しかけていた。
 少年は立ち止まる。
「なんですか?」
 少しだけ不安げな声。
 いきなり上級生から話しかけられた生徒の反応としては普通だ。
 《彼》の友人としては、至って普通だった。
 だから、八純は言ってみた。
 自分にしか見えない事実を。

「君の後ろの子が、寂しそうにしているよ」

「――ッ!!」
 一瞬で、表情が変わった。
 それだけで、八純には分かった。
 少年の後ろにいる存在が――昼間から堂々ということは、憑きモノの怪異であり。
 少年は、そのことに気付いているのだと。
 驚愕に瞳を開き、怯えすら含んだ顔でこちらを見てくる少年に、八純は言った。
「もう少し、構ってあげたようがいいよ。じゃないと、一人で遊びにいってしまうかもしれないからね……」
 それだけを言って、八純は歩き出す。
 それ以上を言う気はなかった。
 少年の後ろにいた子供は、寂しそうではあったけど、満足げでもあったから。
 ここにいられることが、幸せだとでも言いたげに。
 だから、八純には何も言わなかった。
 何も言わずに、立ち去った。
 僕は人と怪異の間にいるのだろうな、と思いながら。




 チャイムがなる。
 残された少年は、呆然と立ちすくんでいる。
 その後ろで、誰にも見えない何かが、くすくすと笑った。







                                     END

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↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。


◆あとがき◆




カップリングシリーズ第二弾。
人名リレー、とでもいいましょうか。
魔女→絵描き→追憶者→神隠しの少女
とカップリングがリレー中。
ぐるりと一周環を描くまでやろうかと思います。

……このCPは、色々とあれですね。
そもそもCPじゃない、という意見すらありそう。
まあ、《前置き》しているから構わないけれど。
この二人、相性悪いとかそれ以前に接点なさそうだしなあ……。
個人的には八純センパイは、死を受け入れる人間だと思います。

作品について。
これもまた日常の一齣。
廊下ですれ違った、ただそれだけのお話。
とはいえ――武巳にとっては衝撃的だけど。
隠していたそれを、簡単に見破られたのだから。
……ん。今度武巳の側から描いて見ようかな。

では。



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