黄色の道





 黄色のコースは時間の道。
 運命から逃げ続ける道。
 

        ◆


 うんざりだ、と黛 薫は思う。
 気違いじみたこの騒ぎも、ザ・ゲームなんていう馬鹿げた遊びも、ガーデンなんていうわけのわからない世界も何もかも。
 歩くたびに見えてくる明日の記憶も、骨格を無視して二足歩行するウサギの連れも、ゲロの海でのたうつような人生も何もかも、だ。
 右を見る。
 変な仮面を被った人型ウサギ――インレの黒ウサギがそこにいる。
 何が死神だ、と思う。
 左を見る。
 毛皮で出来た服を着たウサギ――エル・アライラーがそこにいる。
 何がウサギの神だ、と思う。
 彼らは口を揃えて言う。
 走り続けろと。
 運命に追いつかれるな、と。
「バッカみたい……」
 呟きを聞きつけて二匹の――いや、前を歩くヘイゼルも含めた三匹のウサギが一斉に振り返る。
 黙っていることができないのか、ウサギたちは黛が黙っていても好き勝手に喋り続ける。
 そのくせ、黛が何かを言うといっせいに注目するのだ。
 ウサギたちを無視して、黛は歩くことに専念する。
 ――運命になど、当に追いつかれている。
 ただ、追いつかれていないフリをしているだけだ。
 歩くたびに『新宿』での未来の記憶を黛は得ていく。
 そして――『森』での未来の記憶も、何故かある。
 気づかないだけで、未来の記憶は――運命は、すでに中にある。
 こうして黄色のコースを歩くのははたして何度目なのか。
 それとも――永遠に歩き続けているだけなのか。ゴールがあるなんて嘘で、365の階段を上り続けるだけなのか。
 繰り返し繰り返し繰り返す黄色の道。
 終わりの無い『時間』のコース。
 救いはある。
 死ぬことが既に決まっている。
 立ち止まって運命に追いつかれれば、樹になれる。
 そうすれば、何も考えずに謡うだけでいい。
 黛 薫は、無意識の中ではそのことを知っている。
 彼女の性格が、それを気づくことを拒んでいるだけで。
 だから、口から言葉が漏れ出た。意識せずに。
「……あんたさ、死ぬの恐くないって言ったよね」
「言ったとも! それが『わたし』の言葉か『森』の言葉かはわからないがね」
 エル・アライラーが嬉しそうに跳ねる。
 話しかけてもらえたことが嬉しいのか。
 それとも、エル・アライラーには『愉快』という感情しか無いのか。
 黛には判らないし、どうでもいいと思う。
 ウサギの思考が何であれ、意味は無いし意義も無い。
 けれど、黛の口は言葉を紡ぎ続ける。
「……あんたらさ、ホントに死ぬの?」
「ふむ?」
 エル・アライラーが足を止めて黛を見る。
 瞳の中に興味の色が写っている。
 黛も足を止めエル・アライラーに向き直る。
 遠くに、赤いコースが見えた。
 城之崎灰流がダイスを振って移動している。
 ムーブ停止は――というお決まりのアリスの言葉は、まだ無い。
「それはどういう意味かな黛ちゃん?」
「さあね。……ただ、『森』が望む限り、あんたらは死なない……死ねないんじゃないかって思っただけだよ」
 エル・アライラーはその言葉を聞いて、意外だ、とでも言いたげな表情を作った。
 ウサギのくせに表情豊かだな、と黛は思う。
「もしかしてきみ、気づいてないのかい? それとも、知らないフリをしているだけかい?」
「……どういう意味だよ、それ」
 ひどく――酷く楽しそうな笑みを浮かべて、エル・アライラーは言う。


「どういう意味も何も――それは、きみも同じじゃないか。そうだろう 黛 薫ちゃん? きみもわたしと同じ『森』の『登場人物』で、運命に飲み込まれても死ぬことは無いのだから」


「な――!」
「言い過ぎだ、エル・アライラー」
 激昂しかけた黛の言葉を、インレの黒ウサギが遮った。
「のらくら者の悪党ウサギめ。おまえが運命を[語る/騙る]のか? 走り続けるだけのただのウサギが?」
「走ることこそが、ウサギの運命そのものである――わたしはそう考えるのだけれどね?」
 ウサギたちが何を話しているのか、黛 薫にはわからない。
 ひどく難しいことを話しているような気もするし、当たり前のことを話しているような気もする。
 運命に追いつかれようが何だろうか、自分にはもう関係ないということだけはわかった。
 どのみち――もうおしまいだ。
 未来の記憶の中で、教授はどんどん追いつめられていく。
 自分が長くないように、教授もまた、長くないのだろうと黛は思う。
 いや――教授が長くないからこそ、自分も長くないのか。
 わからない。どうでもいい。
 ただ、足だけは動く。
 一歩一歩、ヘドのような未来の記憶を踏みしめながら、黛は歩く。


        ◆


 黄色のコースは時間の道。
 運命に追いつかれる日は、近い。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あとがき。
やっぱりマイナー路線。Liarsoft/forestの二次創作。小説。黛 薫の物語。
ほんとは最初と最後にリメリックをいれようとも思ったのだけれど、無理。
いつかやるけれど。
FORESTは人を選ぶけれど、面白いです。
本が好きならやるべき作品。
 ……ライアーは全部ひと選ぶなあ……。
次は赤い道かな。


↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。

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