幼き約束




 ……少年は穴を掘る。
 それ以外にすることは無いとでも言いたげにわき目も振らずに穴を掘り続ける。
 雪の積もる土は冷たく、硬く、十にも満たない少年の細腕では簡単には掘れない。
 それでも、少年は掘るのを止めない。
 白い息を吐きながら、痛みと寒さを堪えながら、一心不乱に腕を動かし続ける。
 単純作業に没頭することで、他の全てを忘れるかのように。
 周りには誰もいない。
 葉の枯れ落ちた大樹があるのみだ。
 大河ドナウの沸きいずる地、小さな渓谷を抱く村には、人の姿は無い。
 否――
 村だけではない。
 村の外の森にも、谷にも、平野にも。
 村の外の村にも、道にも、街にも。
 村の外の都市にも、国にも、大陸にも。
 人の姿は無い。
 欧羅巴は完全に死に絶えている。
 黒死病すら死滅し、後にはただ、森が広がるだけだ。
 ダヌの枝葉が広がるのみだ。
 だが、少年はそんな異変にも構わず、ただ穴を掘り続ける。
 ――これが、最後の穴だ。
 少年はそう思いながら手を動かす。
 今このときに至るまで、少年は多くの穴を掘った。
 そして、埋めた。
 男も女も老人も子供も関係なく、村にいた全ての人間の墓を掘り、そして埋めた。
 償いの方法が、それしか思いつかなかったからだ。
 墓を作るくらいしか、少年には出来なかったからだ。
 少年は穴を掘る。
 最後の穴、自分の墓を、少年は無言で掘り続ける。
 少年の目には暗い情熱が宿っている。
 掘り終えたら死ねる、ようやく終われる。暗い瞳がそう物語っている。
 その背中に――
「何してるの……」
 少女が、声をかけた。
 少年は腕を止め、振り向く。
 その表情に驚きは無い。
「あなたは……死神でしょ」
「……死神?」
「何も聞こえないもの。音だけで。人間じゃないんだ」
「……そうかもしれない」
 少年は、心が読めた。
 心が読めるが故に母を亡くし
 心が読めるが故に迫害され
 心が読めるが故にそれを苦と思わず、全てを受け入れた。
 村人たちはその態度に心打たれ、懺悔し続けながら、少年の生を祈り、皆同様に死んでいった。
 誰がも、君さえ生きていれば構わないと呪いながら死んでいった。
 私はここで死ぬが、お前は生き続けろと、そう祈りながら死んでいった。
「――貴方は、死んでしまうの」
「うん。僕が生きてたら、皆死んじゃうから。産んでくれた人も育ててくれた人も遊んでくれた人もみんな死んじゃった。僕に生きててって言いながら。僕が死ねば、きっとみんな戻ってくるよ」
 淡々と言う少年の言葉に、少女は苦痛に耐えるように顔を歪める。
 弱弱しく首を振り、
「だめ。貴方が死んでも、誰も戻ってこない」
「それでもいいんだ。僕、みんなのところに行きたい」
 少年はそう言って、再び穴を掘り始める。
 少女は言葉に詰まり、悩み、それでも言う。
「だめ。死んではだめ。生きて……」
「なぜ? 僕、死にたいよ」
 少年は振り向きもせずに言う。
 少女は泣きそうな顔をしながら呟くように言う。
「私のために。死んではだめ。私のために、生きて」
 少年の腕が止まる。
 少年はスコップを手放し、ゆっくりと振り返る。
 その瞳に、感情の色が灯る。
「あなたは、独りじゃないわ」
「一緒にいてくれるの?」
 少年の声に期待はなかった。
 たとえ少女が否と言っても落胆せず、また穴を掘るだけ――空虚な覚悟がそこにあった。
 少女はそれを知ってもなお、「応」とは言えなかった。
「……いられないの」
「また独りになるんだね」
「……ごめんなさい……。あなたを置き去りにして。ごめんなさい……還らないといけない場所があるの」
 少年の表情は動かない。
 ただ、無言でスコップに手を伸ばすだけだ。
「――だけど」
 その手を、少女の声が止めた。
「迎えに行くから」
 少年は顔を上げ、少女を見る。
 必死な顔をした、綺麗な少女の顔を見る。
「きっと、迎えに行くから。どうか、私を待っていて」
「…………」
 少年は悩む。
 裏切られたことは数え切れないほど、ある。
 そもそも誰かを信じることすら一度も無い。
 他人の心が読めてしまう以上、誰かに期待する、ということは無かったからだ。
 少年は、少女の真摯な顔を見て、読めない心について考え、そして自分を生んでくれた母について最後に考えた。
 結論を出した。
「……うん。僕、待ってるから。ずっと待てるから。約束だよ」
「うん……うん……」
 少女は涙を流しながら、何度も何度も繰り返し頷く。
 まるで、少年のその言葉に救いを貰ったかのように。
 少女はぼろぼろと涙を流しながら、遠くを指差す。
 そちらに行け――生け、とでも言うかのように。
「約束する……クゥ・クラン」
 幼いクゥ・クランは、凍えた手足を引きずり、少女――エマの指し示した方向へと歩いていく。
 その先で、遠く、かすかに汽笛が鳴った。






あとがき。
SEVEN-BRIDGE(ライアーソフト/Liarsoft)の二次創作です。


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 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。


セブンブリッジは大好きです。とても面白いです。最高です。
……四章以降がアレじゃなかったらね!
声が無かったり盛り上がりが足りなかったりあっさりしすぎてたり。
大風呂敷は別にいいんです。
ダヌも最高でした。
……けどなあ。
声と展開と人物。
掘り下げが出来てる人物が空気になっていたり、カイに声が無かったり。
とどめは六章。死ぬの早すぎ。オルゴール出番無し。
……リメイク希望。


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