1 | ひまわりのように |
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花が咲いていた。 咲き誇っていた、といっても良かった。見渡す限りの花畑だった。 花が咲いていない場所など、どこにもなかった。 その妖精は、そのことを喜んでいた。 妖精は花が好きだった。お祭りも、お酒も、イタズラも好きだったけど、それ以上に花が好きだった。 きれいな花。 おおきな花。 あかるい花。 命を感じさせる、どこまでも伸びる、大きな花を咲かせるものが好きだった。 妖精には、名前がなかった。 自然から生まれた妖精には、名前が与えられなかった。 父も母もいなかった。 友達はいたけれど、名前を呼び合うようなことはしなかった。 だから妖精は、妖精でしかなかった。 その妖精は、異変を、異変とは思わなかった。 すばらしい、カミサマからのプレゼントだと信じた。 クリスマスの夜に、枕元にプレゼントボックスが置いてあるのを、異変だと思う子供がいるだろうか? それと同じだった。 妖精は、その出来事を、素直に受け止めた。 受け止めることに、理由なんていらなかった。 原因を知らなくても、花を美しいと思うことはできる。 それが全てだった。 妖精は、美しい花畑の上を、のんびりと飛んでいた。 手にはひまわり。 花にお願いして、一本だけもらったのだ。 ひまわりは大きい。 日に向かう花と呼ばれるだけあって、ひまわりはすくすく伸びていた。 人よりも背の低い妖精よりも、ひまわりは、ずっとずっと背が高かった。 ひまわりを持っているのか、ひまわりにおんぶされているのか、分からなくなるくらいに。 けど、そのことが、妖精は嬉しかった。 ひまわりの花は大きくて、きれいで、見ているだけで心がぽかぽかしてきたから。 小さな小さなお日さまの花が、そこにあるような気がした。 そして、そのお日さまがそばにいれば、大きくなれるような気がしたのだ。 妖精は小さく、長生きできるものはほとんどいない。力を持つものはさらに少ない。 けれど、今、妖精は――つよく、大きくなれるような気がしたのだ。 ひまわりの花のように。 ひまわりの花のように――大きく、強く、すこやかに成長して、花を咲かせることができる。 そう、信じることができた。 それだけで、何でもできるような気がして、妖精は花畑の上を飛びまわった。 周りには、同じように、花を持って飛んでいる妖精たちがいた。 誰も彼もが浮かれていた。 お花だらけの小さなお祭りに、妖精たちは、浮かれていた。 祭りは続く。楽しい楽しいお祭りは、いつまでも続く。 ――誰もが、そう思っていたのに。 始めに死んだのは妖精で、同時に死んだのも妖精で、その数は花畑を飛んでいた半数以上だった。 誰が、何をする時間もなかった。 逃げる間もなかった。気づけば、妖精は、半分以上死んでいた。 仲間たちが死んでからようやく、事態に気づいた。 ひまわりを持った妖精は、玉が跳んできた方を見る。 巫女がいた。 紅と白の巫女が。 巫女は、弾幕を飛ばしながら飛んでいた。妖精たちを見てもいない。 素早く跳びながら、弾幕を放ち続けている。 その流れ弾で死んだのだと、妖精は気づいた。 そして―― 気づいた時には、遅かった。 奥にいた巫女の姿が視界から消える。 代わりに、視界いっぱいになるまで迫った、大きな弾幕。 避けることも、防ぐことも、できなかった。 たとえしたとしても無駄だっただろう――避けても避けた場所に弾幕はあり、防げるような代物ではなかった。 結果。 弾幕の流れ弾は、妖精と、妖精が持つひまわりにあたって、はじけた。 浮力を失い、気力を失い、体力を失い、命を失いながら、妖精は見た。 まるで、花びらが散るかのように、自分の手足がばらばらになって落ちていく姿を。 そして――長く大きかったひまわりの無惨な姿を。 ひまわりの花は、もう、日をむいてはいなかった。 花弁は砕け、花びらは舞い散り、茎は粉々に折れ、落ちていく。 地面へと。 花畑の中へと。 妖精と同じように、花畑へと、花の中へと落ちていく。 落ちていく中で、妖精はふと考えた。 どうして、他のみんなみたいに、わたしの頭は消えていないのだろう、と。 答えはすぐに出た。 妖精の前で落ちる、こなごなに散ったひまわり。 『彼』が、その身を使って、ほんの少しだけ守ってくれたのだ。 大きな子供が、小さな子供を庇うかのように。 それが嬉しくて、首だけになった妖精は、最後の力で、小さく笑った。 「――ありがとう」 それだけを言って、妖精は花の中に落ちた。 運悪く砕けなかった妖精たちも地面に落ち、巫女は、空の彼方へと消えていった。 花畑の中。 人の背よりも大きなひまわりが咲き誇っている。 ひまわりたちは地面を見ない。 ひまわりたちは、空の彼方を、お日さまだけを見ている。 根元で死んでいる妖精を、ひまわりたちは、少しも見ようとしなかった。 けれど、妖精の動くことの無い瞳には、しっかりとひまわりがうつっている。 妖精を守って散った、ひまわりの姿が。 動くことのない妖精の首は、笑っているように見えた。 散ってしまったひまわりも、笑っているように見えた。 ひまわりのように大きくなりたいと願った妖精は―― ――ひまわりのように、散っていった。 |
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↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑ ◆あとがき◆ 東方花映塚 〜 Phantasmagoria of Flower View.より。或る弾幕の行方。 タ |
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