1 ――次の週末に幻想郷は滅亡だ。
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 ――次の週末に幻想郷は滅亡だ。



 博麗神社非常警報が発令されてから七週間が過ぎた。
 博麗神社神主のひと言によって、幻想郷の滅亡はひどくあっさりと決まった。
 妖怪たちは自然の流れとして受け止めたのか、大した混乱は起きなかった。
 それもまあ、しかたないことだろう、というのが大方の意見だ。
 気まぐれな幻想郷の妖怪たちが、ここまで意見を一致させたことはない。


 それでもまだ、未来に希望を託す人は少なくない。
 というよりも、滅亡を気にせずに、好き勝手に生きているのだ。
 明日世界が滅びても今日はある。
 それこそが幻想郷の常なのかもしれない。
 もちろん、滅びを防ごうとする妖怪もいたけれど……

 結局、あと一週間で何ができる?

 何もできない。
 逃げようったって、幻想郷ごと潰れるのだ。
 逃げる場所なんてどこにもない。
 それくらいなら、いっそあっさりと終わった方が楽だった。
 結局、幻想郷は、最後までいつも通りだった。






 ――ただ静かに、幻想郷は死を迎える。






「こんなところでのんびりしてていいの?」

 博麗 霊夢がそう尋ねる。

「のんびりする以外にやることがあるのか?」

 霧雨 魔理沙がそう答える。

「世界の滅亡を止めるとか」

 博麗 霊夢がそう呟く。

「そりゃ巫女の仕事だろ」

 霧雨 魔理沙がそう呆れる。

「巫女の仕事は神の言葉を伝えるだけよ」

 博麗 霊夢がため息を吐く。

「詐欺師と大して変わらないぜ

 霧雨 魔理沙があくびをした。

 そして、二人の少女は、申し合わせたかのように茶をすすった。
 ゆのみは熱くはない。茶はぬるい。けれどうまい。
 人生最後のお茶だからさぞかし美味いかと魔理沙は思っていたが、いつも通りの美味さだった。
 そういうものなのだろう。
 世界と茶は大して関係ないのだ。

「茶菓子は?」

 魔理沙の言葉に、霊夢は首を横に振った。
 全部食べてしまったらしい。
 まあそうか、と魔理沙は思う。
 残すのはもったいない。せっかく死ぬのだ、全部食べておいて損はない。

「あーあ。もっと早く来りゃよかったぜ」
「よりによってなんで前日に来るのよ」
「そりゃ、他の奴らのところを周ってたからさ。私は人気者だからな」
「方々に最後のケンカでも売ってたのかと思ったわ」
「まあ――それもあるな」

 そう言って、魔理沙はけたけたと笑った。
 霊夢は呆れたように茶をすする。
 外は平和だった。
 夕暮れ色に染まる茜空はどこまでも続いている。
 遠くの空で、カラスが鳴いていた。
 どこかで、子供の笑い声がした。
 妖怪か人間かはわからない。
 けれども――とてもとても、楽しそうな声だった。
 多分、人生で最後の遊びだろう。
 それがカンケリや鬼ごっこなら、微笑ましいことだ。
 魔理沙と霊夢は縁側に二人並んで座って茶を飲んでいる。
 茜色に染まる幻想郷を見下ろして、二人で茶を飲んでいる。
 ずずず、という音だけが、静かに響いた。

「さて。私はそろそろ行くよ」
「どこに?」

 霊夢の問いに、魔理沙は上を指差す。
 空を。
 空の彼方、星空を。

「最後だしな。行けるとこまで行ってみようかと思って」
「そう――」

 霊夢は呟いて、茶をすすった。
 最後のやりとりだというのに、味気の無いものだった。
 いつも通り。
 博麗 霊夢は、最後の最後まで、いつも通りだった。
 魔理沙は縁側にゆのみを置いて、「ごちそうさん」と言った。
 そして、箒にまたがる。
 目指すは、空の彼方。
 行けるところまで行くつもりだった。
 そして、二度と還ってはこないことを、魔理沙も霊夢も知っていた。

「さようなら、魔理沙」

 茶を呑みながら、霊夢は言う。

「さよならだぜ、霊夢」

 箒を強く握って、魔理沙は言う。


 そして二人は、長い付き合いを得た親友のように、声を揃えて言うのだ。




『――――――――』



 魔理沙は言って笑う。
 霊夢は言って微笑む。
 そして魔理沙は飛び去り――二度と姿を現すことはなかった。
 魔理沙はきっと、星になるのだろう。霊夢はそう思った。
 魔理沙の去った空と、夕焼けにそまる幻想郷を見ながら、霊夢は茶をすする。
 ぬるめのお茶は、いままでで一番美味しかった。






 ごきげんよう。さようなら。









 ――――よい終末を。




人比良






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◆あとがき◆



12月。リセットを前にして。







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