1 続・三月精を人気にする方法を不真面目に考えてみた。
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「それで、サニー、ルナ。他になにか案はあるの? その――私たちを人気にする案は」

 コタツの上に顎を置いて、気だるげにスターサファイアが呟いた。まったくやる気が見られないが、コタツに這入っている者というのは往々にしてそうなるものだ。柔らかそうな頬の直ぐ側に置かれたミカンを、ヒマそうに人差し指で突く。
 その様子を隣で眇めながら、同じくコタツに入り、ミカンを頬張ったサニーミルクが、

「ひょふひょひゅは、はんはもはひははんはえははひはははは」
「汚いわね、ちゃんと食べ終わってから喋って」

 嫌そうな顔をルナチャイルドがするが、サニーは一向に構う様子はない。一個目のミカンの皮を片付けることもなく、その上に二個目のミカンを広げる。皮を向き、大口を開けて食べようとしたその瞬間に、

「てやー」

 コタツの中でスターが足を伸ばし、サニーの腹につま先をめり込ませた。
 ぶぼら、と少女が叫ぶにしては少々アレな悲鳴が漏れ、口の中に這入りかけたミカンが空を跳んだ。ルナとスターは「わ、わ、汚いわね!」とからかうように言ってそのミカンを避け、サニーは喉にモチがつまった老人のようにむせ続けた。その様子を見て他の二人は指をさして笑う。さすがは悪戯の妖精、といったところなのだろう。
 その三人を見て。


「なあ、君たち。そのミカンもその布団も僕のものだって分かっててやってるのかい」


 店の奥から、店主――森近 霖之助が疲れきった声で言った。
 そう。
 香霖堂、である。
 他のどこでもない。木の中にある三月精の住処でもない。今、三妖精は幻想郷の不思議な古道具屋・香霖堂の中にいた。外では早くもかすかに雪が降り始めている。降り積もるほど強くはないが、冬の訪れを実感させるには十分な量だった。
 つまり、寒い。
 秋との別れを惜しみつつ、霖之助は例年通りにストーブを出し、ついでとばかいにコタツを出したのだが――いつもなら真っ先にくる魔理沙よりも先に、この三月精がやってきた。というよりも、最近入り浸って「人気になる方法」をぺちゃくちゃと談話しながら考えている。その間、客はこない。まったくこない。ひょっとしたらこの妖精たちが道を惑わせているのかもしれないと霖之助はようやく疑い出したが、そもそもそうでなくとも客は来ないので問題はないのだった。
 何もするにも面倒で――こうして三月精の姦しい会話を聞いている次第である。

「私のだったら、もっと惜しんで食べるわよ」とサニー。
「それより、お茶の代わりはないのかしら?」とスター。
「人間ってどうにも気がきかないのよね……」とルナ。

 真っ向もって勝手な三人組だが、妖精とは往々にしてそんなものである。霖之助は対話を諦め、自分のミカンを食べるに留めた。故人曰く、危うきものは無視をしろ、大抵の場合は幻覚だ。
 押し黙って本を読み始める霖之助をちらりと横目で見て、三月精も霖之助を無視することにした。本を読んでいる置物と大して差がないように思えたからだ。

「人気、ね……うーん」

 二つ目を食べ終えて満足したのか、ようやくサニーが考える素振りを見せた。顎に手を置き、香霖堂の店内――主に外から流れ込んできた本が置いてあるあたり――に視線を彷徨わせ、

「弾幕遊びに注目するのはいいことだと思うのよ」
「そうね。今の現状だと、私たちって遊びに誘ってもらえてない可哀想な子だものねー」

 あっけらかん、とスターが言うが、あんまりにも核心をついた言葉にサニーとルナが一瞬でヘコむ。周りの気温が零になってしまいそうな雰囲気だった。

「? どうしたのよ」
「スターって……時々酷いわよね」
「いっつも酷いわよ、スターは」

 はぁ、とサニーとルナがため息を吐く。
 どうしたのかしらー、という顔をスターがするが、天然なのか似非なのかは判断がつかない。恐らくは後者なのだろうが、突っ込むのも面倒だった。
 こほん、とサニーはわざとらしく咳をして、無理矢理に話を戻した。

「とにかく、実力で負けてるんだから――ようするに、格好よく戦えばいいのよ」
「ハッタリ、ってこと?」

 と、ルナ。サニーは満足そうに頷いて、

「一ボスでも愛されてるやつはいるわ! つまり、いかに印象に残るのかが勝負なのよ。そうね、まずは登場シーン」
「インパクトのある登場を、ということね」
「そうそう! 例えば、こんなのはどうかしら――」



        †   サニーミルク作:三月精登場編   †


「この空域は私が支配したぜ! 大人しく持ち物全て貸してくれ!」

 ジャーンジャーン、げぇ、魔理沙!
 という勢いでいつものように魔理沙が現れた。言動は強奪犯そのものだが、『貸してくれ』といっているあたりに、彼女のプライドとあつかましさの両方が見て取れる。絶対に返すアテなんてないくせに、よこせとは言わないのだ。ある意味剛田さんよりもたちが悪い。
 そんな所業を、誰か見逃すというのか。
 森の守り手、自然の使い魔、可愛らしい三月精がやらずに誰がやる!


「「「待ちなさい!」」」

 声は――綺麗に重なった。
 それが三人の意気であるかのように、心のつながりを現しているかのように、声は重なって響いた。三重の力ある声に、さすがの霧雨 魔理沙もたじろぐ。

「な、何奴!」

 動転しているのか、お前が何者だと突っ込みたくなるような台詞を魔理沙が吐いた。
 その言葉に合わせるように――

 ばぁん、と。

 森の一部が爆発した。
 いや、爆発ではない。色鮮やかな煙が放たれたのだ。同時に、サニーミルクの能力によって色取り取りの光が幻想郷を照らし出す。そう、言うならば――身も蓋もなく言うのならば――ヒーローショーの入場シーンだった。
 だが、それゆえに、インパクトだけはあった。
 どこか感動したような魔理沙の目の前で、三つの陰が空へと飛び出した。煙を引き裂いて登場した三月精は、空中でぴしっとポーズを取り、はつらつとした声で名を名乗る!

「一回のスペルカードで1ガロンの弾幕を撃ち出すガロンミルク!」
「花映塚で八時間映姫と戦った記録のあるルナ八!」
「みなみはるおでございます!」


     † 中断 †


「って、ちょっと待って待って!」

 いい感じに爆走していた妄想を止めたのはスターサファイアだった。「何よジャマしないでよよけいな口挟んだならミカンぶつけるわよ」という目線でサニーが睨むが、慌てているスターはまったく取り合わない。
 コタツから身を乗り出してサニーに詰め寄り、

「私だけ格好悪いじゃない!?」
「……前二つも十分にアレよね」

 ルナがぼそりと付け加えるが、サニーもスターも聞いていない。
 スターは、サニーの首元をつかんでがくんがくんがくんがくんがくんがくんと揺らした。揺らしすぎてサニーの目が白目になっているが、スターはそれでも手を止めようとしない。
 口の端からぶくぶくと泡を吐き始めたので、ようやくスターは手を話した。ごとり、とコタツの上に倒れるサニー。そのままぴくりとも動かないサニー。
 そのサニーを見下ろすことなく、きっとルナを睨みつけて、スターは叫ぶ。

「ルナ! 納得のいく説明をお願い」
「いや、だってスター。貴方って――」

 ルナチャイルドは、呆れたような、バカにするような、斜めに構えた口調で、はっきりと告げた。






「公式でもオチ担当じゃない」





「絶望した! マンザイ芸人の出オチのような扱いに絶望したわ!」

 ルナの容赦のない言葉にスターはおろろーんと泣き、泣きながらルナから目をそらし、

「嘘だと言ってよ、サーニィ!」

 向けた視線の先には。
 白目を向き、口の端から涎をたらし、ミカンの山に顔面から突っ込んで動かない汁まみれのサニーミルクの姿があった。

「…………」
「…………」
「…………」

 ルナと、スターと、こっそり見ていた霖之助の間に流れていた空気が停まる。最悪な沈黙だけが場を満たしていた。
 動かないサニーを見下ろして、スターがぽつりと言う。



「ミンチより酷いわ……」





END。


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 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。


・あとがき

× クリスマス
○ バーニィの日。


△ポリバケツに詰められたプレゼントが届く日。さぷらいずぱーてぃ。

だがこの世に飢餓と貧困があるかぎり、博麗 霊夢は何度でも蘇るだろう。



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