1 | 博麗神社最大最後の秘密 |
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それは、誰も知らないことで――同時に、誰に知られてもいけないことだった。 スキマ妖怪だろうが鬼だろうが最強の妖怪だろうが、何を相手にしてでも教えることのできない、最大の秘密がその中には隠されている。 幻想郷の果て、境に位置する重要な場所、博麗神社。 その奥、厳重に守られた最奥にある、箱の中身のことは。 秘密だった。 箱の中身は、誰にもいえない秘密だった。 ――そして霧雨 魔理沙の生きがいとは、秘密を暴くことなのだった。 「霊夢、ご飯の準備終わったぜ」 博麗神社の居住区。ちゃぶ台の上に豪勢な食事を用意して、霧雨 魔理沙は着ていた割烹着を放り投げた。 畳の上であぐらをかき、縁側でセンベイを食べていた霊夢に声をかける。 霊夢はどっこらしょ、と年寄りくさい掛け声を吐いてちゃぶ台についた。 「……また気合入れて作ったわね。何かあったの?」 台の上に置かれた料理を見るなり、博麗 霊夢はそう言った。 彼女の言う通り――それは、普段の霊夢の生活からは考えられないほど豪華だった。盆と正月とクリスマスと誕生日が同時に来たような華やかさ。肉と野菜と米と川魚と山菜と果物をこれでもかというほどに使い、二人では食べきれないほどに積んであった。 和洋折衷なんでもあり。正直なところ霊夢は、魔理沙がここまで料理をできるとは思っていなかった。 「いやいや、たまに腕を振いたくなるだけで、他意はないぜ他意は」 「ふぅん……ま、おごりだからいいけどね」 言って、霊夢はお箸を手にとった。 霊夢のゆうように、今日の料理は魔理沙のおごりである。 性格に言えば、博麗 霊夢が貧乏だという噂を聞いたお節介な妖怪たちが食材を持ち寄ってきたのだ。普段の人望のせいか、それとも霊夢の恐喝まがいを恐れてか、想像していた以上に材料は集まった。 飢え死にされては困る、という思惑もあったのだろうし、逆に、『食べ物あげるから弾幕遊びをふっかけないでくれ』というカツアゲにあう気弱な少女のような思惑も混じっているのかもしれない。 が、霊夢にとっても魔理沙にとっても、それはどうでもいいことだ。 霊夢にとってはただ飯が食えて餓死から遠ざかるならばそれでよし。 魔理沙にとっては――本命の目的を果たすための罠として利用できる。 そう思い、気合をいれて料理を作ったのだ。 「それじゃあ、いただきます」 「いただきます」 二人手を合わせてご飯を食べ始める。 「あら、おいし」 霊夢は手早く、全てを均等に。 「そうだろ? 頑張ったんだからな」 魔理沙はゆっくりと、好きなものだけ。 当然のように時間がたてばたつにつれて食事の量は変わっていく。 美味を良しとした霊夢は、いつも以上にばくばくと食べる。 その様子を見ながら、魔理沙は気付かれないようにそれとなく量を落とす。 慎重に慎重を重ねて――霊夢に気付かれないように。 一時間も経つころには、かなり多めに作った料理はすっかり平らげられていた。 「ふぅ……満足満足」 半分以上は霊夢が食べてしまったのだから、満足しないほうがおかしい。 魔理沙は「そうだろ」と頷いて、 「それじゃ、私が片付けるから霊夢は休んでていいぜ」 普通ならば『あら、私が家主なんだから私がやるわよ』という流れになるだろう。 が、そこはさすがの博麗 霊夢。「あらそう」と嬉しそうに頷いて、ごろんと横になった。 「食べてすぐ寝たら牛になるぜ」 「牛になるのは上白沢よ」 魔理沙は「やれやれ」とわざとため息を吐いて、汚れた皿を流し場まで持っていく。 皿を洗っている間、後ろを振り返れば、横になった霊夢が目を閉じていた。 耳をすませば――かすかな寝息。 あれだけ食べれば、眠くもなるだろう。 うたた寝をする霊夢から視線を外し、再び魔理沙は皿洗いに戻る。その口元は、霊夢から見えない位置で確かに笑っていた。 それこそが、魔理沙の狙いだったのだから。 名づけて――フォアグラ作戦。 食べさせるだけ食べさせて、その隙に目的を達しようという腹だったのだ。本来の意味からは大分遠ざかっているが、魔理沙はまったく気にしない。 皿を洗い終え、残った生ゴミを小さなバケツに入れて、裏口から外へと出る。 あらかじめ掘ってある穴の中に生ゴミを入れて、フタをした。 これで、片付けは終了。 あとは戻るだけ。 戻るだけなのだが――魔理沙は戻らなかった。 ここからが、本当の目的なのだから。 バケツをその場を置き、神社の本堂へと足早にいく。行動は静かに、そして迅速に済まさなければならない。霊夢が起きるまでが勝負だ。 符が張られた扉をあけ、注連縄をくぐり、神社の最奥へと入る。 人一人がなんとか入れそうなそこには、案の定あった。 徹で出来た、頑丈な箱が。 もっとも大切なものを入れるための箱だ、と香霖堂店主の森近霖之助は言っていた。 その箱を霊夢が買うのを、魔理沙は店内で見ていた。大切なものを入れるための、暗証番号で守られた『金庫』という箱。 その日、何を入れるんだ、と魔理沙は聞いた。 博麗神社最大最後の秘密よ、と霊夢は答えた。 そのときは気のないふうを装って「ふぅん」とだけ答えた。それきり話題にも出さなかった。 本当は――ものすごく気になっていたのだ。 気になっていたからこそ、魔理沙は興味がない風を装った。その時すでに、いつものように中身を『借りる』ことを決心していたから。 霊夢が警戒を解くほどの日数を待ったあとで、暗証番号を霖之助から無理やり魔理沙は聞き出し、 フォアグラ作戦を開始したのだった。 そして今、魔理沙の前には金庫がある。 霖之助曰く、叩いても殴っても壊れない箱だというが、暗証番号さえ聞き出していればこっちのものだった。 「1、9、1、7、と」 口で呟き確認しながら、魔理沙はダイヤルを回す。 開かなかったらどうしよう――という不安はあった。 が、金庫の扉はあっけなく開いた。かちん、という硬い音と共に扉のフタがゆっくりと開く。 「さて、どんなお宝が入ってることや、ら、と――」 舌なめずりしながら魔理沙は箱の中をのぞき込み――同時に、首を傾げた。 あるはずのないものが、そこには入っていたからだ。 瞬きをして、もう一度覗き込む。 中身は変わらない。 目元をごしごしとこすって、さらに覗き込む。 やっぱり中身は変わらない。 一度蓋を閉め、もう一度ダイヤルを回しなおして開けてみた。 それでも――中身は変わらない。 「……どういうことだ、これは?」 魔理沙は首を傾げる。魔理沙でなくとも、博麗 霊夢のことを知るものならば、誰だってそうしただろう。 金庫の中に入っていたのは――その箱の名前の通りに。 一抱え以上ある金塊と、宝石と、お金が入っていたのだから。 すべて売れば、一生遊んでくらせるだけの金が、そこには入っていた。 『貧乏巫女・博麗 霊夢』を知る魔理沙からすれば、信じがたいものだった」 本物かどうか確かめるべく、魔理沙は箱の中へと手を伸ばし、 「みぃぃぃぃたぁぁぁぁなぁぁぁぁぁ」 死ぬほど驚いた。 突然、後ろから、鬼もはだしで逃げ出すような恐ろしい声がしたからだ。 誰の声かは分かっていた。分かって当たり前だ。今、博麗神社にいるのは、自分の他には一人しかいないのだから。 声には聞き覚えがあった。聞き覚えがあるからこそ――地の底から響くようなその声が、たまらなく恐ろしかった。 恐ろしすぎて、振り向くことすらできない。 それでも魔理沙は、勇気を振り絞って振り向き、 腰を抜かした。 般若が失禁しそうなほどに恐ろしい形相の霊夢が、祓い串を手に仁王立ちしていたからだ。 体から魔力でも噴き出ているのか、風もないのに髪がざわざわと揺れていた。 「れ、霊夢! どどど、どうして」 「注連縄の結界超えといて気付かないわけないでしょうぅぅぅぅぅ」 言って、霊夢は一歩魔理沙に近づく。どすん、と怪獣が歩み寄ってくるような効果音が聞こえたような気がした。 どすん、とさらにもう一歩。それだけで、魔理沙の寿命が10年ほど縮む。 ――殺される。 本気でそう思い、魔理沙は必死になって弁解を始めた。頬を滝のように汗が流れ落ちる。 「こ、これは違うんだ霊夢、これはだな、その、」 「言い訳無用――見られた以上、やることは一つよ」 きらん、と祓い串が光った。光るはずないそれが光ったように見えたのは、きっと魔理沙の錯覚だろう。 一歩、一歩と霊夢は近づいてくる。 そのたびに祓い串が右へ左へ音を立てて揺れる。 「ま、まて霊夢、やめてくれ、なにする気だ、」 「仕方ないのよ魔理沙」 霊夢は立ち止まる。 それは魔理沙に近づくことをやめたのはなく――もう近づく必要がなくなったからだ。 手を伸ばせば届く距離で、霊夢は仁王立ちする。 腰が抜けた魔理沙は逃げることもできない。ずりずりと手と尻の力だけで後ろに下がろうとするが、すぐに金庫にぶちあたって動けなくなる。 その魔理沙目掛けて、霊夢は祓い串を掲げ、冷酷に告げた。 「博麗神社がじつは大金持ってて、貧乏な振りして他人にタカってるだなんて――知られるわけにはいかないもの」 「貧乏じゃなくても貧乏臭――!」 「問答無用ッ!」 鬼神のような勢いで、祓い串が振り下ろされる。 神社の神木に留っていたカラスが、すさまじい悲鳴を聞いてぼとりと木から落ちた。 |
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