1 | 馬鹿はとても怖い! |
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☆あらすじ☆ チルノ マジ 最強 「ア――イ――シ――ク――ル――――フォールっ!!」 チルノが勢いごんで叫んだ。どちらかといえば熱血系というよりは舌ったらずな幼女がせいっぱい叫んでいるような感じだったけれど、スペルカードであることには違いなかった。 最強・熱血・殲滅。勇者の名に相応しいだけの技(パトス)がチルノの全身から迸り、それらは冷気となって鋭い槍とかした。ただし、五センチほどの。 つまりは、冷気の弾幕である。 「くぅぅぅぅぅっ! なんてパワーだ! なんてパワーだ!」 二回言うな。 魔理沙は「なんてパゥワーだ!」と三回目を繰りかえし、チルノから距離を取った。正しい。チルノを多い囲むようによって生まれた氷弾、それを避けようと距離を取るのは弾幕的には凄く正しい。イージーでもなければ、零距離射撃は最後の手段なのである。 逃げていく(ように見える)魔理沙をみて、チルノは満足げに笑った。へん、あいつったらあたいのパゥワーに恐れをなして逃げたのね、なんて有頂天に天狗に鼻高々になって胸を張る。馬鹿はおだてなくても空へと昇っていくものなのだ。 もっとも。 アイシクルフォールを出したチルノから距離を取った魔理沙の顔には、隠しようもないにやにや笑いが浮かんでいる。少しも焦っていない。どころか楽しんでいる。むしろからかっている。おもにチルノを。 それもそうだ。 季節は夏である。 暑いのである。 そんなわけでチルノをからかいにきたのだ。氷弾が出ればあたりは冷える。アイシクルフォールを二、三個拾ってカキ氷にして食べようと、そういう腹積もりさえあった。アイシクルフォールをよけるのは容易いし、いざとなったらマスタースパークで光にしてしまえばいい。 初めから勝負はついているのである。 だが。 「ふふん。あたいのアイシクルフォールを前と同じものだと思ってもらったら大間違いなのよ」 胸を張り。 自信と共に。 チルノは――言い切った。 すかさず、魔理沙は言う。 「弱くなったのか?」 「強くなったのよ!」 「へえ」 じろじろとチルノを見る。冬から変わっていないチルノの姿を。そして、チルノの周りに浮かぶ氷の槍を見る。 小さい。 短小である。 冬に比べて、幾分か小さくなったように見えた。 チルノと氷槍を交互に眺めてから、 「びっくりすることばかりだぜ」 魔理沙は棒読みで言った。 まったく驚いていなかった。 むしろ眠そうだった。 チルノはぷくぅと頬を膨らませて 「…………馬鹿にしてる?」 「いや、馬鹿がいるだけだ」 「なーんだ、そんなことか――って馬鹿にしてんじゃない!」 「本当のことを本当に言って悪いことはない!」 「逆ギレ!? レティ、酷い人間がここにいるよぅ……」 「此処じゃなくて神社にいるだけだぜ」 さらりと言って、魔理沙は箒を握りなおした。にやにや笑いが消え、代わりに浮かんできたのは、戦いに挑む強き眼差し。戦え魔理沙、命がある限り。派手なBGMが背後で流れるのをチルノは聞いたような気がした。 「さあチルノ――喧嘩をしようぜ! 弾幕喧嘩を! お前のその、以前とは違うでかくて硬くて白光りしたアイシクルフォールを使ってくるんだな!」 心にもない世事を言いながら魔理沙は跳ぶ。チルノめがけて。正面からの箒アタック。もしも本当にアイシクルフォールがパワーアップしているのならば、それごと打ち砕いてみせるぜ。闘志に燃える魔理沙の瞳はそう物語っている。 「面白い!」 チルノは、正面から受けてたった。 ばっ、と右手を高く高く空へと掲げ、 「アイシクルフォール――いっけええええええええええええええええええ!」 叫んだ。 叫び声に応え、宙に浮いていたアイシクルフォールが一斉に射出される―― ――空へと。 「………………」 飛びかかろうとしていた魔理沙の動きが止まった。身構えていた体が硬直する。てっきり、全弾が自分へと踊りかかってくると思っていたのだ。それらをすべて格好よく華麗に美しく見事に避けて、チルノにとどめの一撃を加える――そう脳内シミューレートしていたのだ。 ところが。 実際に行ったのは、意味も意図も不明な行為だった。宙に浮かんだ氷の槍は、すべて誰もいない空を目指して跳んでいった。垂直に、勢い良く。 もちろん、魔理沙にダメージはまったくない。 わけのわからない攻撃だった。 「……そこの馬鹿」 「馬鹿っていうな――!」 魔理沙は手足をばたばたと動かして抗議するチルノを無視して、 「……何がしたかったんだ?」 誰もが思う疑問を投げかけた。 しかし、チルノは―― 「ふっ」 と、不敵に笑った。 本当に「ふっ」と口で言った。 そんなことを本当にやるやつを始めて見た魔理沙は、思わず噴出してしまう。ご丁寧にも散るのは、声にあわせてその短い前髪を手で払っていた。その仕草がツボにはまり、魔理沙は笑いを必死で堪えて箒をばんばんと叩く。 魔理沙の奇行に首を傾げながら、チルノは「ともかく!」と声を張り上げる。 「何勘違いしてるのよ! まだあたいの攻撃は終わってないのよ!」 「何……?」 笑うのを止めて、魔理沙はチルノを見る。 対照的に――チルノは、笑っていた。 絶対の勝利を確信して。 チルノは、言う。 「真・アイシクルフォール!」 そして――正しく。 氷の槍が、降り注いだ。 フォールの名に相応しい攻撃だった。空へと跳んだ槍は一定距離で上昇をやめ、その位置エネルギーを運動エネルギーへと転換して隕石のように落下した。真上から、真下へと。氷の壁が一斉に降り注ぐ。 「う、うわあああ!」 完全に意表を突かれた。上から降ってくる槍の群れを、魔理沙は混乱をあらわにして必死に避けた。華麗さも何もない。無我夢中でさけ、さけ切れなかった槍が箒に刺さり、それでも無茶な軌道で槍をよけ、無茶が過ぎて――墜落した。 「くっ!」 間一髪で箒を飛び降り、地面の上をごろごろと転がって魔理沙は着地する。幸いにも怪我はない。けれど、怪我がなければ良いというものではない。 まさか、チルノにしてやられるとは。 まさか、真上から雨のように弾幕が降り注ぐとは。 戦意と敵意と羞恥心、そしてわずかばかりの敬意を込めて、魔理沙はきっと頭上のチルノを睨みつける。 いなかった。 「……え?」 見る。 いなかった。 浮かんでいたはずのチルノの姿は、どこにもなかった。雨あられのように降り注いでいたアイシクルフォールは既になく、晴れた夏の空が広がるだけだった。 「……チルノ?」 名前を呼ぶ。 答えはない。 恐る恐る、 奇妙な確信に導かれて、魔理沙は視線を落とす。 ――チルノがいた。 魔理沙よりも下――地面に倒れ伏すようにして、チルノがそこにいた、うつ伏せに倒れたまま、ぴくりとも動かない。脳天には氷の槍が突き刺さっていた。 「………………」 言葉もない。 魔理沙は想像する。真・アイシクルフォールを。真上へと放ち、真下へと落ちてくる。予想外の角度からの攻撃に、魔理沙は苦戦を強いられた。真上から、真下へ。 つまり、アイシクルフォールの全弾が、放ったチルノめがけて降って来たことになる。 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――馬鹿だ」 万感の思いを込めて、魔理沙は呟いた。 否定する人間は、誰もいなかった。 ともかく――このままにしておくわけにはいかないと魔理沙は思い成す。チルノは馬鹿だが、嫌いではないのだ。こんな光景を目にして戦意が保てるはずもない。やる気はもう欠片も残っていなかった。 倒れ伏したチルノに近寄る。アイシクルフォールの氷槍は、チルノの頭上からまっすぐに突き刺さったらしい。半分ほど頭に埋もれていた。 「人間なら即死だな……」 恐々と魔理沙は言う。チルノが妖精でよかったと、本気で思う。もしも人間の頭がい骨に氷槍が刺されば、まちがいなく死んでいる。大穴が開き中から脳味噌ゼリーがこんにちわだ。 妖精なら、まあ、大丈夫だろう――そんな無節操な考えを信じて、魔理沙はチルノを抱き起こす。 だらんと手が垂れた。 瞳孔が開いている。 「うーん……」 魔理沙は悩み、チルノに突き刺さっている氷槍へと手を伸ばす。ひんやりと冷たかった。ずっと触れていたいくらいに、心地良かった。 氷槍を、魔理沙は握り。 「――――ふんっ!」 気合一発、豪快に氷槍を引き抜いた。 すぽーん、とやたらと軽い音がして氷槍が抜け落ち、地面に転がった。抜けた後には―― 穴が開いている。 チルノの頭に、まあるい穴が開いていた。 「うわあ……」 あまりもの光景に魔理沙は慄きながら、興味をひかれたのか、その穴を覗き込んだ。 ぽっかりと開いた、頭の中。 中には。 何も入っていなかった。 「…………」 もう一度見る。 もう一度、魔理沙は、チルノの穴を覗き込む。頭に開いた穴を、しっかりと、覗き込む。 何も入っていなかった。 何も見えなかった。 人間に入っているべき器官――――脳味噌が入っていなかった。からん、と音すらしない。完全な伽藍堂な頭がそこにはあった。 「…………」 魔理沙は。 そっと、無言でチルノを地面に寝かせた。そしてそのまま、チルノを放って立ち上がり、空を見た。 空は蒼く、 太陽はまぶしかった。 そして魔理沙は、夏まっさかりの幻想郷に向かって、大きく息を吸い込み、どこまでも響き渡るような大声で叫んだのだった。 「馬鹿がいたぞ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」 〜完〜 |
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