1 もっとキスする
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 六畳一間の小さなアパート。そこが、秘封倶楽部の秘密基地だ。





「メリー、早くカギ開けてよ」

 身を縮めながら蓮子が呟く。長く熱い夏も終わり、近ごろではめっきり冷え込んできた。晴れていたから薄着で出かけたものの、夜になるころにはすっかり冷え込んでしまった。半そでで外にいると、さすがに少し寒い。
 風が吹くたびに、蓮子は身を丸くする。
 蓮子に比べて温かそうな格好をしたメリーは、「慌てない慌てない」とのんびりと返した。

「今開けるわ――はい開いた」

 メリーの言葉どおり、がちゃり、という音と共にアパートの鍵が開く。すかさず蓮子は手を伸ばし、ノブを捻り戸を開けた。
 三階建ての小さなアパートの小さな部屋。大学から駅一つ分と、徒歩で十三分。
 そこが、秘封倶楽部の秘密基地であり――同時に、愛の箱巣だった。

「たっだいまー」

 軽快に蓮子はいい、アパートの中に身を滑らせた。靴を放り脱ぎ、短いキッチン兼廊下を駆け抜けて部屋へと飛び込む。
 その後をメリーが続いた。鍵をしめ、蓮子が脱ぎ捨てた靴と自分の靴を並べて揃える。
 二人の靴以外には、何もない。
 玄関にあるのは二人のものだけだ。二人分の傘、二人分の靴、二人分の靴べら。
 靴を揃え終えたメリーは、ゆっくりと部屋へと向かう。冷蔵庫は一つ、コンロの火元も一つ、けれど食器やグラスはすべてセットの品だ。
 皿も器もグラスもコップも箸もフォークも、どれも二人分。
 その横を通り過ぎて、メリーは部屋へと入る。先に入った蓮子は、奥のベッドに倒れこんでいた。

「あー……疲れた。本っ当に疲れたわ」

 ごろりと仰向けになり、だらけきった声で蓮子が言った。リラックスを通り越して、今にも眠ってしまいそうな声だった。
 メリーは嬉しそうに苦笑して、脱いだ上着をハンガーにかける。
 六畳一間のフローリングは、物が多い割には整然としていた。
 壁際の本棚にはジャンルもサイズもばらばらな本が詰め込まれている。マンガから哲学書、小説から家庭の医学まで。伝奇や民俗学の本が多いのは秘封倶楽部ならではだろう。
 テレビはない。『自分たち以外は秘密基地には不要だ』という蓮子の信念により排除されたのだ。代わりに、緩やかなクラシックを流すコンポが隅に鎮座している。
 臙脂色のカーペットの上にあるのは、小さな丸机が一つと、レトロな椅子が二つ。机の上には、季節外れの小さな小さな手乗り向日葵が飾られている。
 意外かもしれないが、物を持ち込むのが蓮子であり、片付けるのがメリーだ。

「疲れたって、そんなに動いたかしら?」
「動いても働いてもないけど、この時期は疲れるのよ」
「あら。風邪をひかないように気をつけないと。体力落ちたときが危ないのよ」
「メリーこそ、夜更かししないようにね」

 はいはい、とメリーは頷き踵を返そうとする。冷蔵庫に飲み物を取りにいこうと思ったのだ。
 が、そのメリーの背中めがけて、蓮子が声を投げる。

「メリー待った」
「え?」
「ただいまのちゅー」

 ベッドに横になったまま、蓮子はそんなことを口にした。
 別に酔っ払っているわけではない。断じて違う。完全に素面だ。
 疲れているので、脳が動くことすら拒否しているのかもしれない。いつもよりも間抜けな言い草で、顔がへらりと笑っていた。
 ただ――行為自体は、そう珍しいことでもない。
 メリーは苦笑し、

「はいはい」

 頷いて、部屋の中へと戻りベッドの側で膝立ちになる。カーペットの柔らかな感触が膝に伝わった。
 すぐ側にあるメリーの髪へと蓮子は手を伸ばした。黄金色の髪に指先を入れ優しくすすぐ。
 間近で、視線がからみ合った。

「おかえり、メリー」
「おかえり、蓮子」

 いつものように挨拶を交わして、どちらからともなく顔を寄せた。
 メリーが蓮子の頬にキスをして。
 蓮子がメリーの頬にキスをして。
 少しだけ顔を離して、もう一度見つめあい、恥かしそうに笑って。
 三度目のキスは、そっと触れるだけ、唇に。
 しばらく外にいたせいか、唇が乾いていた。それでも、柔らかい感触だけは十分に伝わる。
 触れるだけの、優しいキス。
 唇が離れる――目線は離れない。
 四度目のキスは蓮子からだった。遠ざけかろうとしたメリーの頭を、髪にまわした手でそっと押さえた。顔を寄せて、先よりも深くキスをする。唾液に濡れた舌が乾いた唇を濡らした。蓮子の舌はそのまま、メリーの唇を割って奥へと忍び込み、舌がからみ合い、

「ん、んー!」

 メリーが喘ぎ、身を離した。寝ている姿勢では力が入らなかったのか、あっけなく蓮子の手が解かれる。
 蓮子の手が届かない場所まで身を離し、手の甲で唇をぬぐって、メリーは蓮子を軽く睨む。

「もう! 飲み物取ってくるって言ったでしょ?」

 半眼で睨まれても、蓮子はびくともしなかった。どこかとろんとした目でメリーを見返し、

「いや、その。つい、ね?」

 そう言って、自らの唇を舌で軽く舐めた。紅色の舌が艶かしく動く。
 メリーの視線がその舌へと伸び、すぐに逸らされた。立ち上がり、「ついじゃないでしょう」とどこか嬉しそうにぼやきながら、今度こそ踵を返して冷蔵庫へと向かう。
 台所の隣に置かれた、小さな冷蔵庫。
 その中に入っているのは、簡単なおつまみと飲み物だけだ。『生活に必要な』とまで言えるような食材は入っていない。
 それもそうだ。
 ここは、秘密基地なのだから。
 蓮子もメリーも、本当の家は他にある。この部屋は、住むための部屋ではない。
 二人だけで過ごすための、秘密の部屋だ。
 存在を知っているのは、二人以外には誰もいない。安い家賃をさらに折半しているのでそこまで困らない。
 二人だけでくつろげる場所。それは、何物にも変えがたいものだった。
 誰にも邪魔されず、誰にも知られることのない。
 二人だけで過ごす、秘封倶楽部の秘密基地。
 それがこの部屋だった。メリー曰く、別名・愛の巣箱。

「蓮子、呑みたいものはあるかしら」

 メリーは冷蔵庫を開け、未だベッドの上でごろごろする蓮子に問いかける。
 答えが帰って来るまで、きっかり五秒かかった。

「何があるー?」
「ワインに日本酒にビールに梅酒にブランデーにウィスキーに焼酎にその他諸々……お酒ばっかりね」
「コーヒーと紅茶と日本茶は戸棚。水のペットボトルは残ってたっけ?」
「えっと……ないわね。そう、蓮子がラッパのみしたんじゃない」
「だって、」

 言葉が途切れた。
 返事が返って来ないので、メリーは冷蔵庫を開けたまま、状態を反らして部屋の中へと視線を送る。
 蓮子は身を起こしていた。ベッドの上であぐらをかき、楽しそうに笑って、

「キスすると、喉渇くじゃない」
「……そうね」

 何て答えるか迷って、結局メリーは呆れ半分に頷いた。
 確かに喉は渇く。ただしそれは、よっぽど求めるようなキスをしたときだけだ。あるいは、それ以上の行為をしたときに。
 触れるだけならば、そうでもない。
 そうでもないが――メリーは結局のところ、どちらも好きなので強くは言わなかった。

「で、何を呑みたいの蓮子?」
「メリーの、」
「ワインね。私のお勧めの」

 蓮子の言葉を遮り、メリーは目についたワインボトルを取り出す。すでに中身は半分ほどに減っていて、一度あけたコルクが無理やり詰めてある。
 片手に持ち、冷蔵庫を閉める。開いた手でワイングラスを二つ持ち、部屋へと戻ると、蓮子はやっぱり笑っていた。

「メリーのワイン? 血のように紅き豊穣の雫――ね」
「トマトは入ってないわよ」
「ブドウと愛が入ってるわね。ブドウ糖も入ってる?」
「少なくとも、ビフィズス菌は入ってないわね」

 机の上にグラスとボトルを置いて、メリーは椅子に座った。ボトルに挿してあったコルクを抜き取り、二人のグラスにワインをそそぐ。
 その姿を見ながら、蓮子がベッドから降りた。カーペットの上をぺたぺたと歩き、空いた椅子を通りこして、メリーの後ろへと回る。
 ワインをそそぐメリーの背へと、蓮子はそのまま抱きついた。椅子ごしに脇の下へと手を回す。膨らみかけた蓮子の胸が、メリーの背へと押し付けられる。
 金の髪の隙間に除く白い首筋に、蓮子は吸血鬼のように唇をはわせた。
 ちゅー、とわざと音を立てて吸い付く。「ぃ、」とメリーが声を漏らし、蓮子はキスをしたまま首筋を舐めた。

「うー……今日の蓮子は甘えん坊ね」

 蓮子は唇を離し、

「きっと月が紅いからよ」
「……紅かったかしら?」
「いえ、見てないけど」

 今度は反対側の首筋へと口をつける。跡が残らない程度に強く。唇の隙間から舌を出し、血管を愛でるように撫でた。
 メリーがワインを注ぎ終えると同時に、蓮子は唇を離した。
 ボトルを机に置いたメリーが、その手に、自分の手を重ねた。指先が自然に絡まる。
 それを合図に、メリーが座ったまま振り向いた。蓮子も身体をずらし、唇を重ねる。
 温もりを感じあうような、穏やかなキス。
 心の中で五秒数えて、蓮子は身を離した。ついでに絡めていた手も外し、メリーから身体ごと離れる。
 
「血のように紅き唇――愛は入ってたわよ」
「それはそれは光栄ね」

 蓮子は机を回って、自分の椅子へ。
 座って、ワインが注がれたグラスを手にとった。メリーも同じようにグラスを手にとり掲げる。
 蓮子もまた、グラスを掲げた。
 二つのグラスが、かすかに触れ合う。

「愛情と、秘密に」
「秘密と、愛情に」

『――乾杯!』

 声を揃えて高らかに。
 二人はグラスで音を立て、ワインを口へと運んだ。赤い液体が赤い唇を通り越していく。ワインに濡れた唇は血よりも紅かった。
 あっという間にグラスは空になり、今度は蓮子がワインを注いだ。空になったボトルにコルクで詮をしめ床の上に転がす。
 机に肘をつき、メリーの顔を見ながら、蓮子はワインを飲む。
 椅子にゆったりと腰かけ、メリーはゆっくりとワインを飲む。

「それにしても蓮子」
「なに、メリー?」
「今日はやけに機嫌がいいわね。何かあったのかしら?」

 いつも以上にキスをしてくる蓮子に対して、メリーはそう尋ねた。
 キスをするのは、珍しくもない。
 それでも――こうもべたべたするのは、珍しいことだった。
 無論、嫌ではないが。
 嫌ではないが、気にはなった。
 メリーの質問を受けて、蓮子はにっこりと笑った。酒が回り始めたのか、その頬が微かに紅く染まっている。

「教えて欲しい?」
「えぇ、勿論」
「どうしても?」
「どうしても、よ」
「なら――」

 蓮子は言葉を切り、ワイングラスを置いて、メリーの瞳を覗きこんだ。瞳が微かに濡れている。まつ毛が長いことにメリーは気付く。
 妖しく微笑みながら、蓮子は身を乗り出して囁いた。

「キスしてくれたら、教えてあげる」

 そう言って、蓮子はくすくすと笑った。
 よほど嬉しいことがあったのかしら――とメリーは思う。酒はまだそんなに入っていないのに、いつにもまして上機嫌だった。
 気恥ずかしいけれd、嫌な気はしない。

「もう、仕方ないわね――」

 身を乗り出し、目を瞑って待つ蓮子に向かって、メリーも身体を突き出した。いつもは蓮子からしてくるので、自身からやるのはやはり気恥ずかしい。おまけに体勢が不安定なので、ぎりぎりまで目を瞑ることもできなかった。
 きっと、自分の顔も真っ赤なのでしょうね――そう思いながら、メリーは蓮子にキスをした。が、

「……っ、」

 勢いが強すぎて、歯が当たった。蓮子が小さく呻きを漏らす。

「だ、大丈夫!? ごめんなさい蓮子――」

 慌ててメリーが謝るが、蓮子は片目だけを開いて笑い、

「いいのよメリー。それより、もう一回」

 開いた片目を、閉じた。先と変わらぬ姿勢のままで、蓮子はメリーを待つ。

「そうね……もう一回、ね」

 今度は慎重に、ゆっくりと、メリーは顔を近づける。細心の注意を払って、そっと、唇を押し付ける。
 かすかに漏れる息を肌で感じた。長く長く、ずっとキスをしていたくなる。
 離したのは――蓮子の方だった。
 名残惜しい、とメリーは思ってしまう。
 そのことを察したかのように蓮子は笑った。余計に恥かしくなって、メリーは思わず視線を逸らす。
 くすくす笑いが蓮子から漏れた。

「焦らなくてもまた後で。それより、知りたいんでしょ? 教えてあげる」

 言って、蓮子は椅子から「よっと」という掛け声とともに飛び降りた。酔っ払いさながらのふらつき歩きでベッドまで歩き、ベッドに放り出してあった鞄に手を伸ばす。
 鞄の中をごそごそと漁ること数十秒。その横顔を、メリーはワインを呑みながら見つめる。
 蓮子が目的のものを探り当てるころには、ワイングラスは空になっていた。

「これこれ、これを買ったからなのよ」

 鞄から取り出したのは、小さな箱だった。真ん中から二つに開くタイプの、黒茶色の箱。
 ――見覚えがあった。
 それが何なのか、メリーは知っていた。が、酒の入った頭は簡単に答えを出してくれない。メリーが思い出そうと頭を捻っている間に、蓮子は机へと戻ってくる。
 椅子をひっぱり、メリーの対面にではなく、すぐ側、隣り合うようにして座った。
 メリーは結局思い出せず、

「……それ、なぁに?」
「メリーへのプレゼント」

 プレゼント? とメリーは鸚鵡返しに言った。蓮子は嬉しそうに「ええ」と頷き、その箱を、メリーへと差し出す。
 箱自体は、何の細工があるようにも見えない。
 つまり――その中身こそが、プレゼントなのだ。
 箱をしげしげと眺めながら、メリーはそれを受け取った。二つ折りの箱を開けようとし、

 ――指輪入れ?

 開ける瞬間に、ようやくそのことに気付いた。
 案の定――開いた先にあったのは、丁寧に収められた指輪だった。飾り気のない、シンプルな作りの指輪。
 綺麗だ、とメリーは思った。
 出てきたものの衝撃に、それ以上思考が進まない。そんなメリーを見つめて蓮子はにやにやと笑う。

「私がこっそり節約してたの、気付いてた?」

 メリーは答えられない。
 視線を、指輪から外すこともできない。

「結婚指輪とか、婚約指輪とか、そういうのじゃないけど――」

 蓮子はふと真顔になり、それから恥かしそうに笑って、

「それが、私の気持ち。いつか渡したかったのよ」

 ようやく――その言葉に。
 メリーは顔をあげて、蓮子を見た。蓮子は笑っていた。
 その笑顔を見て、メリーもまた、微笑んだ。

「これ、つけてもいいのかしら?」
「ええ、勿論。……つけて欲しい?」

 蓮子の提案に、メリーは即答した。

「――おねがいするわ」
「承りました、オヒメサマ」

 冗談めかして蓮子はそう言った。箱の中から、そっと銀の指輪を取り出す。
 空になった箱を、メリーは大事そうにポケットの中へとしまった。この箱は一生取っておこう――まだ見ぬ未来の自分にそう誓う。
 奇しくも、オヒメサマのように、そっと指を差し出す。
 その指――薬指へと、蓮子は銀の指輪をはめた。

「……どう?」

 不安の入り混じった顔で、蓮子は言った。
 その顔を見つめ、メリーは微笑んだ。蓮子を安心させるかのように。

「不思議なくらいにぴったり。ありがとう、蓮子」
「そう――よかった」

 心の底から、蓮子が安堵のため息を吐いた。
 指輪を喜んでくれたことが嬉しくて、蓮子は、子供のように無垢な笑顔を浮かべる。

 その笑顔が――たまらなく愛しくて。

 メリーは、自分からその唇にキスをした。
 唇の向こうから驚きの感触が伝わる。その感触は、すぐにいつもの優しいものに変わった。
 唇をつけては離し、離してはつける、ついばむようなキスをメリーは幾度となく繰り返した。
 満足がいくまで、メリーはキスをする。
 感謝の気持ちを、すべてこめて。
 キスをやめるころには――蓮子は、ワインよりも真っ赤な顔になっていた。
 
「……メリーも積極的じゃない」
「嬉しいからよ」メリーは笑い、「それとも、お酒が入ってるせいかしら?」
「両方であることを祈るわ」

 ふぅ、と大きく深呼吸をして、蓮子はちらりと机の上を眺めた。
 自分のグラスにはまだワインは残っていたが、メリーのグラスは空になっていた。
 二杯で酔っ払うとは思えないが、軽く酔うには十分だった。
 何よりも――幾度となく繰り返した、キスに心が酔っていたのかもしれない。
 やり返そう、と思った。
 愛に愛を返そうと、キスにキスを返そうと、蓮子はそう思ったのだ。

「お酒、まだあるわよ」

 グラスへと手を伸ばし、蓮子はワインを口に含めた。
 飲み込まずに、そのまま口の中で転がす。

「え、」

 というメリーの声を聞く間もあればこそ。
 すぐ側にあったメリーの唇へと、蓮子は再度キスをした。突然のキスに「んん、ん、」とメリーの呻きが漏れる。
 それでも蓮子は唇を離さない。より一層、より深く、貪るようにぴったりと口をつける。
 舌を挿し込み――小さく、唇を開いた。

「ん、ぁ――」

 舌を伝うようにして、蓮子のワインが口移しにメリーへと動いた。蓮子は身体を乗り出し、やりやすいように少し身を上にする。
 覆いかぶさるようなキス。
 グラスから手を離し、メリーの頬と頭に手を添える。少しずつ、少しずつ、味わうようにしてワインを運ぶ。
 手の触れた先、メリーの喉がこくん、こくん、と蠢くのが分かった。
 口端から零れたワインが、血の雫のように床へと落ちた。臙脂色のカーペットの上に落ちたワインはもう見えない。
 そもそも、二人には、落ちたワインなど見えていない。
 瞳を閉じて、キスだけに意識が寄っていた。触れ合う唇の感触が、喉を伝うワインの味が、頭の中を支配していく。
 メリーの舌が動いた。蓮子の口内に残るワインを、貪欲に求める。奥の歯から唇の裏まで、舌先が這いずり回る。
 負けじと、蓮子の舌も動いた。侵入者たるメリーの舌を、愛情でもって包み込む。
 ワインを味わっているのか――互いを味わっているのか。
 気付けば口内にワインはなくなり、唾液混じりの舌がからみ合うだけになった。それでも二人は唇を離さない。
 圧し掛かられていたメリーの体から力が抜け、ゆっくりと後ろへと崩れる。
 覆いかぶさるように、蓮子は椅子から立ち上がった。その間にも唇は離れない。
 ――キスは止まない。
 手で倒れる方向を調節し、蓮子はそっと、メリーの頭と背を机の上へと運んだ。
 机に押し倒すような格好。
 メリーの頭に添えていた手を離し、自らの体重を支える。
 そして、キスが激しくなる。
 舌が互いの口内を訪れては去っていく。唇をなぞるように舐め、舐め返され、さらに舐める。唾液が机の上へと零れ、小さな水溜りを作る。
 机の上に扇状に広がったメリーの髪を、蓮子は無意識に撫でていた。
 やがて――呼吸ができなくなって、ようやく、蓮子は唇を離した。

 ――つぅ、と。

 唇と、唇の間に、唾液の糸がひいた。
 30センチも離れずに、蓮子は、押し倒したメリーの瞳を覗きこむ。
 情欲に濡れる美しい瞳を。
 メリーは、押し倒された蓮子の瞳を覗きこむ。
 愛欲に燃える美しい瞳を。

「……洋服、しわになるわね」

 メリーが、幸せそうに囁く。

「あら。メリー、それは無理よ」

 蓮子が、嬉しそうに呟く。
 どうして、とメリーは瞳で問い返す。
 蓮子は微笑んで、

「もう、待てないもの」


 唇が近づく。
 キスが始まる。
 二人の営みを、知るものはいない。


 愛だけがそこにある。

人比良


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↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。


■作者からのメッセージ
 甘い秘封倶楽部が書きたかった。愛の巣箱が書きたかった。
 すごく満足した。


だがこの世に飢餓と貧困があるかぎり、博麗 霊夢は何度でも蘇るだろう。


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