1 ジャーンククラーッシュ! げぇ――! 貧乏巫女の財布が空っぽになってやがる――ッ!
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 私の名は賽銭箱。お賽銭の味方にして、弱き者のために戦う正義のヒーローだ。金をとって救うのは正義のヒーローかと問われれば困るが、生憎と私の鋼鉄ボディー(*木製です)は金を入れねば動かないのだ。何、古今東西、正義のヒーローには弱点がつきものだ。賽銭を得て戦うくらい、何と云うことはない。
 だが、そんな私の存在を気に食わない者がいた。
 貧乏巫女・博麗 霊夢である。

「あんた、最近お金入ってないからクビ」

 そう言い渡して、あろうことか博麗 霊夢は私をゴミ捨て場へと追いやったのだ。元々私がいた位置には、今ではおみくじ箱とやらが置かれている。お金を巻き上げ見返りに運勢を占うというみみっちい輩だ。私からすれば歯牙にかける必要すらない奴なのだが、不思議なことに幻想郷人口の八割を占めるとウワサされる女性陣には人気らしい。
 おかしい。絶対におかしい。あんな奴よりも私のほうが優れていることに何故誰も気付かない……?

 SHIT 
 嫉妬 !

 というわけで私は、憎きおみくじ箱を倒し、幻想郷ナンバーワンヒーローの座を取り返すべく奴に挑むことにした。いや、挑むという言葉はおかしい。それは自分よりも格上の相手に向かって使うべき言葉である。私とおみくじ箱、較べればどちらが上かなど考えるまでもないだろう? 私の上にあるのは、あの美しくも素晴らしいレミリア嬢が持つとウワサされる棺桶くらいだ。ああ、あのお嬢のミニマムボディーを優しく包み守る棺桶に私もなりたい! お金だけではなく少女の体をみつちりと詰めてみたい!
 などと思うのは罪だろうか? いやいや、罪ではない。少女を守るのは男の役目、子供を守るのはヒーローの役目。それこそ私、幻想郷のヒーロー賽銭箱に相応しい仕事ではないかね。そうだ、あんな守銭奴の巫女の下にいるのはやめた。おみくじ箱を倒したあかつきには、紅魔館に再就職しなおすことにしよう。

「ゆえに! 貴様の命、今ここで貰おう!」
「なにが『ゆえに』なんですかー」

 びし、と突きつけた私の声を聞いて、おみくじ箱はへらへらと笑い、間延びした声を返した。ううむ、いつ聞いても癪に障る声だ。大体、なんだあのひ弱なボディは。縦長の長方形だと? 信じられん。箱とはどっしりと地に構える形であるべきだ。

「説明しなければ分からんのか! 無知だな!」
「説明以前に色々足りないものがあると思うんですけどお……」

 奴が何事か戯けたことを言うが無視。聞く耳持たず、というやつだ。もっとも私には耳は無いが。ついでに言えば口もない。
 ……どうやって私は喋ってるんだ?
 まあいい。些細なことだ。人が空を飛ぶ今、口がない賽銭箱が喋ってはならないという法もない。

「貴様のそのとぼけた面が気に食わんと言っている!」
「言ってないじゃないですかぁ……」
「今言ったのだ!」
「はぁ……」

 頭を掻いた(ように見える)おみくじ箱。うう、どこまでもとぼけた奴だ。
 やはり――決着をつけるしかあるまい。あんなものを、いつまでもここ場所でのさばらせておくわけにはいかない。
 そう、挑むのではない。
 決着をつけるのだ。
 正義を勃てるのだ。

「どこの馬の骨とも知れん貴様に――幻想郷は任せておけないということだ」
「馬の骨じゃなくてぇ、木で出来てますよ、私たち」
「揚げ足を取るな!」
「脚、ありませんけど……」

 のらりくらりと――いやまて。これこそが奴の作戦なのかもしれない。私を怒らせることによって、冷静な判断を奪い、労なく勝とうという手だな。
 はは、気付いてしまえばなんということもない。私のように冷血沈着絶対無敵賽銭箱が、敵に策に乗ろうはずもない。

「だが――私がその手に乗ると思ったら大間違いだ!」
「だからぁ、手も無いですよぅ……」
「そう、貴様は手も足も出ないままに終わるのだ!」

 なおも何か言おうとするおみくじ箱を無視して、私は気合を入れる。ここが執念場だ。
 やつがいるのは博麗神社前、かつて私こと賽銭箱があった場。私がいるのは、そこから横にしばらく歩いた焼却場わきの粗大ゴミ置き場。
 ――冷静に考えればそうとう屈辱的な始末! やはり、やつは倒させねばなるまい!
 気温28度。風はなし。太陽は西に沈みかけている。
 逢魔ヶ時。今以外に、やつを討つ時はなし!

「お命頂戴! ――銭符『銭形投銭』!」

 高らかな声と共に、私の体から眩いばかりの銭が飛ぶ!

「――えぇ!?」

 おみくじ箱の驚いた声が聞こえる。だが、もはや遅い。
 だてに私はあの巫女の姿を見続けてきたわけではない。この神社の前で幾たびも行われた弾幕ごっこを、私は動けぬ身体で常に見守り続けてきた。幸い考える時間だけは途方もなくあったから、オリジナルのスペルカードを開発することなどお茶の子をさいさいするよりも容易い!
 動けぬ体でも可能な攻撃手段。それが弾幕、それがスペルカード!
 私と同じく、自力では動けぬ貴様に避けられる法はなし!
 私の体から出た色鮮やかな賽銭は、幾つもの十手の形を取りながらおみくじ箱を囲むようにして迫る。あの弾幕がぶつかるときこそ、あの長細い箱が砕け散る瞬間なのだ!

「さらばおみくじ箱、きさまは正しく宿敵だった!」

 嬉々として私は別れを告げ、


「いえ――まだですよぅ」


 その声に被さるように、爆発が巻き起こった。

「何ィ! これはどういうことだ!」

 濛々とまいあがる煙がゆっくりと晴れていく。その向こうにいるのは、不敵に笑う(ように見える)おみくじ箱の姿。そして――その周りには――

 ――ひらひらと、破れたおみくじが舞っている。

「貴様、真逆!」
「そのまさかですぅ」
「貴様――貴様――貴様は――貴様――貴様も――貴様が――スペルカードを使うだと!?」

 私の言葉に、おみくじ箱は答えずに静かに笑って肯定した。 
 なんということだ――私が苦労して編み出したスペルカードを、奴もまた会得していたとは。いや、考えてみれば不自然なことではない。私が少女たちの弾幕遊びを見ていたように、奴もまた見ていたはずなのだ。ならば、会得していたことも不思議でも不自然でもない。
 だが――だが!

「わたしが負けたわけではない! 捕符『平次インパクト』!」

 私は全身に気合を入れ、次なるスペルカードを放つ。賽銭で出来た十手が二本、私に意志に従って自由自在におみくじ箱へと襲い掛かる!
 誘導型こそ数はあれ、自動操縦のスペルカードを来るのは私くらいのもの、いくらおみくじ箱がスペルカードを使えるとはいえ、なすすべもなく――

「いえ、無駄ですぅ」

 が、奴の言う通り、私の攻撃は無駄に終わった。おみくじ箱から出た籤の紙が、まるで大蛇のように賽銭弾幕に絡みつき、そのまま包み殺してしまったのだ。籤は次から次へと生まれ出でる。白い髪が嵐のように乱舞する。
 気付けば、残るのは破れた籤の欠片ばかりで――私の弾幕は、一発として奴の体には届いていなかった。

「これがわたしのスペルカード、籤符『らっきーくっきー』ですぅ。攻撃力はありませんけどぉ、自動で敵の弾幕を防いでくれるんですぅ」
「――貴様」
「はぃ?」
「言語センスがないな? なんだそのダサいスペルカード名」
「ほっといてくださいぃ!」

 やつは頬を膨らませて(そのように見えた)怒る。うむ、少しだけ溜飲がさがった。
 が、それもわずかな間のこと。奴は急に真顔に戻り、その木目調の顔でじっと私を見つめてきた。

「それより、まだやるんですかぁ?」
「――――」

 奴の言葉に私は応えない。
 ――確かに、奴の言うことにも一理ある。
 私が攻撃的なスペルカードを開発するのと合判して、奴は徹底的に防御に徹した。そもそも戦う理由があるのは私の方であり、奴としては身を守ればいいのだから、引き分けはすなわち奴の勝ちなのだ。巫女の力が加えられた豊富な籤が、すべての弾幕を防ぐ。
 敵ながら、見事としか言いようがない。
 だが。
 だが――

「ふふふ……」
「? どうしましたぁ?」
「可笑しいから笑っているのよ! 貴様に見せてやろう――技を砕くのが、限りない力であることを!
 ――先生、先生ー! 出番です!」
「……先生?」

 訝しげな奴の声に、私は笑って答える。
 なぜならば――先生が出張る以上、私の勝ちに揺るぎはなくなったからだ!

「夜空の星が輝く陰で、悪の笑いがこだまする――」
「だ、誰ですかぁ!?」

 朗々と歌うような先生の声が聞こえる。それに伴い、どこからともなく彼女の背景音楽が流れ始める。さすが先生、人間にしては――そもそも人間ではないけれど――劇的な登場シーンだ。私が一目置くだけはある。

「銭から銭に泣く人の――涙背負って卒塔婆で始末」

 かつん、かつん、と足音がする。神社へと至る道、その長い道を登ってくる先生の足音。かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かつ、か。

「――小野塚 小町、お呼びとあれば即参上!」

 ばーん、という格好のいい爆発音と共に、夕陽を背負って先生――小野塚小町先生が、神社に姿を現した!

「先生、相変わらず早いお付きですね!」

 私が声をかけると、先生は「ちっちっ」と指を振り、

「なぁに、私にとっては――距離なんて、意味のないことよ」

 そう言って、不敵に笑った。これだから先生はたまらない。素晴らしい。できれば箱にしたいくらいだ。
 突如現れた先生を見て、おみくじ箱は戦く声を出した。まあ、常人ならぬ常箱が先生のお姿を見れば、それだけで気絶してもおかしくはない。しっかりと意識を保っているおみくじ箱を褒め称えるべきだろう。

「あなたが助っ人、ですか……?」
「いかにもその通り!」
「どうして……?」
「仕事をサボってたら意気投合した!」
「言い切った!?」
「いやー、なんというかアレよねー。うん、同じ銭を使うものとして見過ごせないってうか。現在進行形で仕事サボってるから帰るに帰れないっていうか。正直お仕置き怖いし」
「……駄目駄目じゃないですかぁ」
「やかまし! というわけで賽銭箱、手伝うからヤッヂマイナ――!」

 そう言うと先生は、その手に持っていた大鎌を振い――私の何倍もの量の賽銭を繰り出した! 一瞬すら必要とせずに世界が金銀黄金に染まっていく!

「――!!」

 おみくじ箱が籤符を出そうとするが、圧倒的なまでに速度が足りない。
 何をするすべもなく、大量の銭は突き進み――迷うことなく、私の身体に吸い込まれる!

「……え? ミスショット……」
「いいや、違う!」
「ああ、違う!」

 私と先生の声が完全に同期する。一心同体すらをも越えた銭で繋がった仲。ああ、今私は先生と一つになっている!

「あたしが投げた銭を――」
「――私が受け取り、弾幕とする!」

 戦慄するおみくじ箱。だが、今度こそ、本当に、遅すぎる。銭の充電は百二十パーセント。かつてこれほどまでに神社の賽銭が潤ったことなどない。貧乏巫女の屈辱をも通り抜けて、今、私は生まれて初めて真の力を発揮する! 小町先生の協力を経て!
 狙いは一箇所。神社前に鎮座するおみくじ箱。
 奴の長方形の身体を見据え――私と先生は、まったく同時にスペルカード宣言をした。


『これが、銭の輝きだ――ッ! 銭符『寛永通砲』!』


 私の体すべてから、眩いばかりの光が溢れる。光は銭の光、命の光だ。すべての銭は一筋の光となり、大河の奔流となっておみくじ箱を穿つ――!


「きゃ――っ!」

 奴の悲鳴が聞こえる。私は勝利を確信し、

「な――――」

 スペルカードを、途中で、無理やり遮った。行き場をなくした光が、明後日の方角、具体的には三途の川があるとウワサされるところへと飛んでいった。力を無理やり遮った反動で私の身体に皹が入るが、そんなことに構ってはいられなかった。

「おみくじ箱!? おまえ、何を!」

 小町先生の驚く声が聞こえる。だが、私の脳にまでは届いていない。
 私の意識の総ては、傷を負ったおみくじ箱の姿へ注がれていた。

「おみくじ箱――お前は――」

 おみくじ箱の細い体。皹が入り、表面の塗装が剥がれてしまったことで、その真の姿が明らかになっている。
 長方形で、細長いのも、当然だったのだ。
 なぜなら――

「お前は、女だったのか!」
「……気付いてなかったんですかぁ?」

 涙交じりの声でおみくじ箱は言う。たしかに、気付いてみればそれは女の声だった。
 私は――女相手に、大人げもなく、弾幕をぶつけていたというのか!?

「お前の塗装と、嫉妬の炎が――私の心を鈍らせていたようだ」

 なんという――無様。
 幻想郷随一の紳士たろうとする私が、女を傷つけてしまうとは。
 悔やんでも悔やみきれない、とはこのことだ。もしも私の体が人間のそれならば、私はいますぐ首を吊っていただろう。だが悲しいかな、私は動くことのできぬ箱。クビを吊ることなどできやしない。せいぜい箱が吊られているだけだ。

「おみくじ箱、私はどうすればいい!? どうすれば、お前に償えるというのだ!」

 私の必死の嘆願に。
 おみくじ箱は――にっこりと、今まで見たことのないくらいに優しい笑みを浮かべて、言った。

「ここからいなくなれ〜!」
「ショック!」

 あまりにも酷すぎる。悲しみのあまり、私の身体は灰になってしまった。スペルカードを撃ったときの摩擦熱で引火したのだろう。ということは勝とうが負けようが私の運命は決まっていたわけだ。
 無念。
 だが、悲しむことはない。どうせゴミ捨て場に置かれているのだ。いつかはこうなる運命なのだ。
 だが――だが、おみくじ箱よ、忘れるな。
 たとえ私が焼け死んだとしても、いずれ第二、第三の賽銭箱を、貧乏な巫女は金儲けのために作り出すだろう!
 そのときが、お前の最後だということを!







(了)


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↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。


■作者からのメッセージ


「……というお話だったのよ」
「アリス、ゴミ捨て場でなに独りぶつぶつ言ってるんだ?」
「見る? 私の友達」
「………………いや、遠慮するぜ」





(完)


だがこの世に飢餓と貧困があるかぎり、博麗 霊夢は何度でも蘇るだろう。


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