1 黄金の昼下がり 〜 Q 9 Queen〜
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 世界が黄金色に輝いている。





 ゆっくりと時間が流れていく。真昼には天上にかかっていた太陽が、西へと傾き始めていた。真夏の日差しが、葉々の隙間から零れ落ちてくる。陽光は水面で反射し、世界はまるで輝いているかのように見えた。
 七月に入って四日ほど過ぎた、午後一時。
 熱で働く気力をなくしたのか、時計の針は遅々として進まない。時間が止まってしまったかのような、幻想郷の中での小さな幻想。穏やかに流れる澄んだ川が、太陽の輝きを底まで通している。
 ぴんと張った、音のしそうな空だった。
 その空の下を、川は幻想郷を貫くようにして流れていた。
 低いところからより低いところへ。
 角度などほとんどない、どこまでも続きそうな川だった。
 川を流れるのは、木のうろで出来た丸太の舟。
 へりもかいもないその舟は、川に浮かぶ葉のように、ゆらゆらと揺れながら進んでいる。
 舟の上には、三人の少女たち。
 人ではない。妖怪でもない。自然の中を生きる、妖精の少女たちだった。
 足を水面にさしこみ、日傘を斜めに傾ける少女――スターサファイア。
 スターの対面に座り、手の先で水に触れる少女――ルナチャイルド。
 舟の真ん中で横になり、手でひさしを作る少女――サニーミルク。
 陽と、月と、星の妖精だった。そのうえで少女だった。おしゃべりで、イタズラ好きで、可愛いものと楽しいものを詰め込んだ、砂糖のように甘く蜂蜜のように蕩けた、そんな少女たちだった。

「冷やっこいわね」

 スターが言いながら足を動かす。ぱちゃぱちゃと、蹴られた水が雫となって飛び、水面に落ちては波紋を作った。
 足元を泳いでいた魚が、吃驚したかのように離れていった。

「早く夜にならないかしら……」

 ゆび先で川の水をかきまぜながら、ルナが気怠げに呟いた。
 月の光の妖精であるルナチャイルドにとって、太陽の光はあまり得意とするものではない。
 川の両脇に生える木々のおかげで時折日陰が出来るとはいえ、この暑さならばなおさらだった。

「いつまでも昼が続けばいいのに」

 答えたのはサニーだ。全身で気持ちよさそうに日光をあびている。
 日の光の妖精であるサニーミルクは、日光をあびるだけで快復ができる。今のこの場は、楽園のようなものだろう。

『夏――よね』

 三つ合わせた舌の声。
 サニーミルクは喜色満面に。
 ルナチャイルドはため息混じり。
 スターサファイアは微笑みながら。
 三者三様の言葉に答えるように、セミがじぃ、とひときわ大きく鳴いた。
 川の両端は森。薄暗い森の中で、セミたちは元気よく鳴いている。
 川と、少女たちだけを――太陽は照らしている。
 長くぽっかりと切り取られた黄金色の道を、少女たちは穏やかに下っていく。
 速くなることも、遅くなることもない。すべては自然のままに、だ。

「それでサニー? お次はどんなお話?」

 言いながら、スターは足をゆるやかに動かした。まるでオールの代わりにするかのように、足で舟を漕ぐ。
 小さな足では川の流れも舟の流れも変わらない。わずかな波紋が舟の後へと続くだけだ。
 それでも、スターは気にしない。止めもしない。
 かっこうだけをつけて、スターは微笑んでいる。

「また私?」

 不満げに答えるサニーに、ルナが一言、

「また貴方。今日は貴方の日でしょ」

 そう言って、ルナとスターは声をそろえてくすくすと笑う。
 ああ残酷な二人!
 こんな時間に、こんな夢見る天気のもとで、小鳥のように囀る物語をせがむとは!
 けれど本当にせがむ声は、二つではなく三つ。
 ルナの声と、スターの声と、サニー自身の声。

「しょうがないわね」

 少しもしょうがなくない声で言って、サニーは身を起こす。
 それが、お話の合図だった。

「始まり始まり」

 拍手の代わりに水を叩いて、ルナがせかす。

「でたらめ入れて、楽しくおかしく」

 足をぱちゃぱちゃと鳴らして、スターがせかす。

「それではお話しの、始まり始まり!」

 指をぴんと立てて、楽しそうにサニーが話し始める。

 ゆるやかに時間の流れる黄金色の川。

 その水の囁きに、少女たちの、楽しそうな声が混じる――





        †   †   †





 昔々、あるところに――

「昔のお話より、今のお話がいいわ」

 そう? ならそうしましょうか。
 そう昔じゃない、つい最近。

「いつのお話?」

 くらーい、くらい夜中のお話。
 お日さまが寝静まって、お月様が一番上に来た時間。

「私の時間ね」

 そう、ルナ、あなたの時間よ。
 空の色は、深い海の色でした。
 向こう側に何かがあるような、空の中を魚が泳いでいるような。
 海の魚がうっかり空へと飛んでいきそうな、そんな空でした。
 その日の夜は、にぎやかな夜でした。
 なにせ、お隠れになっていたお月様が、本当のお月様が戻ってきたのですから。
 妖怪たちはさわぎます。
 ざわざわ、がやがやと。
 妖精たちもさわぎます。
 ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃと。
 人は眠っています。
 眠っていない人もいました。

「黒白とか?」

 黒白とか。

「紅白とか!」

 紅白とか!
 とにかく、いつもの、騒がしい人はみんな起きている、騒がしい夜でした。
 その中に、ひときわ騒がしい妖精がいました。

「誰? 私かしら? それともルナ?」

 そこにいたのは、妖精の女王です。

「妖精の女王? そんな人いたっけ……」

 妖精の女王は、本当は女王ではありませんでした、まだ。
 一番強くて、一番早く飛べて、一番力があるから、
 自分で勝手に女王を名乗っているだけなのでした。
 女王はいつもこう言います。

『あたいは女王じゃないわ、まだ!』

 それもそのはずです。
 自分以外に、彼女を妖精の女王と呼ぶ人は、一人もいないのですから。
 彼女は考えました。
 必死で考えました。
 無い頭を振り絞って、こねくりまわして、考え続けました。
 どうすれば女王になれるんだろう。
 どうすれば女王と呼んでくれるんだろう。
 考えても考えても分からずに、考え抜いたすえにやっぱり分からなくて、結局人に聞くことにしました。

「分からないことがあったら人に聞く、ね」

 そうね。そういうこと。
 おかしいと思っても人に聞く。
 聞かずに分かるならそれがいいけど。

「それで? その女王はどうしたの?」

 白く冷たい氷の女王は、古びた図書館へ行きました。
 紅いお屋敷の奥にある、紙と時で出来た図書館です。
 図書館の主は、いつものように不機嫌そうな顔です。
 一番奥の椅子に座って、むっつりと客を見ています。
 最初から不機嫌なのか、客がきたから不機嫌なのか、
 それとも望んだ客じゃなかったから不機嫌なのかは、
 図書館の主と仲良しではない女王には分かりません。
 そもそも、女王はそんなことを気にしませんでした。

『ねぇねぇ教えてよ! 教えてよ!
 どうやったら女王になれるのか。
 あんたが知ってるなら教えてよ!』

 女王の急な質問に、図書館の主は淡々と答えます。

『貴女は妖精で一番強い。
 貴女は妖精で一番堅い。
 貴女は妖精で一番早い。
 足りないのは頭の中身。
 足りないのは女王の証。
 貴女に足りないモノよ。
 みんなが認めてくれる』
 
『証? 女王の証だって!?』

『そう。証。証となるモノ。
 それはたとえば黄金の冠。
 それはたとえば妖精の輪。
 それはたとえば白の外套。
 女王には二種類があるの。
 生まれたときからの女王。
 女王に成り変わった女王』

『それさえあればいいんだね!
 あたいは女王になるんだね!
 ありがとう! ありがとう!』

 笑ってお礼を妖精は言います。
 笑ってお礼を少女は言います。
 けれど図書館の主は違います。
 お礼の言葉を聞いて笑います。
 皮肉の混じった目で笑います。
 蔑みのこもった目で笑います。

『でもね、気をつけなさい妖精さん。
 気をつけなさい、小さな女王さん。
 女王の証は大きな力。大きな証し。
 小さな人には、とても扱えないわ。
 分不相応な力は、貴女を滅ぼすわ』

 それを聞いて、妖精は笑います。
 不適な笑いを妖精は浮かべます。
 そんなことは大丈夫だと。
 あたいに限ってそれはないと。
 そう言いたげに妖精は笑います。

『呪いなんて怖くない!
 ばちなんて恐れない!
 だってあたいは最強だから。
 証しはきっとあたいのもの。
 あたいのために証はあるの!』

 そう言って、妖精は図書館を飛び出しました。
 妖精はもう振り返ることはありませんでした。
 図書館に残された主は、本に目を落とします。
 女王になりたがる妖精のことなど忘れてます。
 彼女にとっては、本の方が大事なのですから。

『証はどこにあるんだろう?
 黄金の冠ってなんだろう?』
 妖精の輪ってなんだろう?』
 白の外套ってなんだろう?』

 図書館の外。
 広い湖の上。
 自分のすみかで妖精は考えます。
 ぶつぶつと呟きながら考えます。
 女王の証を手に入れる方法を。
 黄金の冠を手に入れる方法を。
 妖精の輪を手に入れる方法を。
 白の外套を手に入れる方法を。

『そうだ! あたいは最強の妖精!
 だったら妖精たちにやらせよう!
 妖精たちに、もってこさせよう!』

 ぴこんと頭に電球輝き、
 妖精の真青な瞳も輝き、
 くるりと反転、一直線。
 さっと風より速く飛び、
 ぴゅんと駆け着いたのは、
 三妖精の住む古い樹の家。

「私の家?」
「私たちの家ね!」

 そうよ、ルナ。
 そうよサニー。
 貴方と私と貴方の家よ。
 古くて大きな大樹の家。
 飛びついた妖精は、それはそれは大きな声で、
 森中に聞こえる声で、「集合!」と叫びます。

「はい、集合一!」
「集合ニ……?」

 ――集合三!
 集まったのは三月精。
 弱くて便利な使い走。
 姿を消したり、
 音を消したり、

「生き物を見つけたりするのよね?」

 そうねスター、それが貴方の能力!

「それで? 強い妖精は、私たちに何て言ったの?」

 妖精はまずルナにこう言いました。

『そこの月の妖精! あたいのために、妖精の環を取ってきなさい!』

 妖精は次に私にこう言いました。

『そこの陽の妖精! あたいのために、白い外套を取ってきなさい!』

 妖精は最後に、スターにこう言いました。

『そこの星の妖精! あたいのために、黄金の冠を取ってきなさい!』

 そうして、自分自身は、木に腰掛けてお昼ねしてしまいました。

「手抜きだわ!」
「怒らないのルナ。きっと頭が悪いのよ」
「……私の? 妖精の?」
「あらルナ。貴方も妖精じゃない」
「スター!」
「はいはい。それで、私たちはどうするの?」

 命令されたルナは考えました。
 妖精の環について考えました。
 時間を操る不思議な妖精の環。
 女王グロリアーナの妖精の環。
 そんなものが、何処にある?
 不思議な物は、何処にある?
 時間を操る――妖精の環は!

『そうだ、そうね、分かったわ。
 時と空間を操る妖精の環なら、
 あそこにあるに違いないわ!』
 
 ルナは得たりと微笑んで、
 とうを得たりと微笑んで、
 踵を返して飛び去ります。
 向かう先は紅色に輝く湖。
 その更に先に建つ紅の館。
 紅魔館へと飛び込みます。

『し――っ、静かに静かに』

 人差し指に唇当てて、
 そっと能力を使えば、
 周囲の音が消えます。
 静かな静かな月の光。
 音を操る、ルナの力。

「見つかったら大変ね」

 大変、大変、それはきっと大々変!
 紅い門番にちょいあっと蹴られて、
 紅い従者にぐさっと突き刺されて、
 紅い主人にぱくっと食べられます。
 見つからないよう、静かに飛んで。
 ひらりはらりと、メイドをよけて。
 向かった先は――広い洗濯物置場。

『きっとここにあるはずだわ』

 がさり、ごそりとあさります。
 どこになにがあるのかなんて、
 以前に働いたから知ってます。
 さして時間をかけることなく、
 目的のものを、見つけました。

『あったわ!』

 小さく小さくガッツポーズ。
 手に握ったのは、小さな布。
 白く小さな、ヘッドドレス。
 メイド長が頭につけている、
 十六夜 咲夜が使っている、
 白くて可愛いヘッドドレス。

『これさえあれば、きっと時間も操れる』

「そうでなくとも、あの妖精を騙せるわ」

 そうね、そういうこと。
 ルナは手に入れました。
 妖精の望む妖精の環を。
 一方のサニーミルクは、

「貴方のことね」

 そう、私のことよ、スター。
 私ことサニーミルクは――

『白い外套なんて、どこにもないわよ!』

 幻想郷という幻想郷を飛び回りました。
 それでも、白い外套は見つかりません。
 どこをどんなに探しても。
 ここをどこまで探しても。
 白い外套は、ありません。

『そんなの着てるの、見たことないわよ』

 端の端の更に端、幻想郷の端っこで、
 サニーは腹立たしそうに呟きました。
 幻想郷のあちこちを飛び回ったので、
 立つのも億劫なほどに疲れてました。
 その辺にある高い樹木に寝そべって、
 サニーはぶつくさと独りぼやきます。

『見つかるわけないじゃない――』

 そう言った次の瞬間に、見つかりました。

「見つかったの!?」

 見つかってしまったのです。
 寝そべったサニーの真下を、
 確かに白い外套を着た人が、
 てくてくと歩いていました。
 紫色の髪をした女の人です。
 眼鏡をかけた賢そうな女性。
 白い外套を――着ています。

『……チャンスだわ』

 サニーは、小さく呟きました。
 なぜ小さな声なのかというと、
 ルナがこの場にいない以上は、
 大きな声で喋ってしまったら、
 女の人に気づかれるからです。

『えいやっ』

 という掛け声と共に、サニーは腕を振るいます。
 光の屈折を操る能力を、女の人に使ったのです。
 たちまちの内に日光が遮られて暗くなりました。

『うう、急に寒くなってきた気がするわ』

 けれどまったくの逆効果でした。
 女の人は寒い寒いと呟きながら、
 白い外套をより一層深く着ます。
 これでは奪う事など出来ません。

『失敗、失敗、こっちだったわ』

 サニーはもう一度腕を振りました。
 今度は逆に、日差しが集まります。
 太陽の光が白い外套に集まります。

『ええ、今度は急に暑くなってきたわよ!』

 女の人は驚いて、外套を脱ぎました。
 さぁ――今こそ最大のチャンスです。
 えいやっ、と掛け声を出す暇もなく、
 サニーは、びゅっと飛び込んで――
 さっ、と白い外套を奪い取りました。

『あっ!』

 気づいたときにはもう後の祭りです。
 サニーは自分の能力をぱっと使って、
 白い外套ごと姿を消して逃げました。

「お見事! これで二つ目まで集まったのね」
「そうね。あとはスター、貴方だけよ」
「私? 私はね――」

 小賢いずるいスターは前の二人とは違って
 真っ先に、ある場所へと飛んでいきました。
 向かった先は不思議な古道具屋こと香霖堂。
 魔法の道具がたくさん置いてあるそこへと、
 スターは迷うことなく、飛んで行きました。

『おや、君は隕石を売ってくれた妖精じゃないか』

 と、店主。

『あら、あなたは隕石を買ってくれた店主じゃない』

 と、スター。

『今日はいったいどんな用だい』
『もちろん用があってきたのよ。えっとね――』

 スターはきょろきょろと店の中を見回します。
 その視線が止まって、その指が示したのは。

『これ、ちょうだい?』

 黄金の王冠――に見える、黄色い瓶のフタ。
 小さな、小指サイズの、黄金の王冠でした。

『これかい? これはたいしたものではないよ』
『そういうことは、店主が言っちゃ駄目なのよ』
『いいのさ僕のは道楽だから――欲しいのかい?』

 うん、とスターはうなずきました。

『ならあげるよ。代わりに、今度また珍しいものをもってきてくれ』

 わかったわ、とスターはうなずきました。
 もちろんそれは言葉だけの約束でしたが。
 スターは約束したつもりなんてありませんし、
 店主の方も、さして期待していませんでした。
 それでも、品物が手に入ったことは確かです。
 ありがとうと言ってスターは頭をさげました。
 かまわないよと言って店主は本を開きました。
 それきり、スターの方を見ようともしません。
 自分のこと以外には、興味がないのでしょう。

「失礼しちゃうわね」

 失礼しちゃわれたのですよ。
 それはともかくとして――
 黄金の冠を手に入れました。

「私が黄金の冠で――これってアスランなのかしら――サニーが白の外套?」
「白い女王の外套ね。それで私が、グロリアーナの妖精の環?」

 そういうことね。

「全部、そろったわね」

 ついに、三つのものが揃いました。
 女王になるために必要なものです。
 黄金の冠。
 妖精の輪。
 白の外套。
 三月精から、妖精はそれを受け取ります。
 とたんに妖精は喜色満面で大笑い大喜び。
 くるくるぱーと空中で舞い回り踊ります。

『やった、やったわ! これであたいが女王ね!
 これなら多分きっと間違いなく――勝てるわ!
 白黒とか、紅白とかにぎゃふんと言わせれる!』

「らが抜けてるわよ」
「ルナは細かいわね!」

 らを抜かしてしまった妖精は――
 白の外套をばさっと羽織って、
 妖精の環を首にくるりと回し、
 黄金の冠を小指につけました。
 そして三月精たちに言います。

『あたいの活躍、見てったてっいいのよ!』

「かんだわね」
「かんだわ」

 かんだのです。

『あたいは――最強よ!』

 その言葉を――最後に。
 妖精は飛び去りました。
 遠く、遠く、遠くへと。
 消え去ってしまいます。
 そして―――――――





        †  †  †





 サニーミルクは長く短く短く長い話を語り終え、一つため息を吐いた。
 長く長く長く長い、川のようなため息だった。口から出た吐息は、夏の大気の中へと溶けて消えていく。
 お話の余韻に浸っているのか、ルナチャイルドもスターサファイアも、何も言わない。
 お話を聞き始めたときと同じ姿勢で、のんびりとしている。
 のんびりと、川は流れる。
 のんびりと――舟は流れる。穏やかな日光の中、黄金色に光る川を、舟は下っていく。
 太陽は遠く、夜も遠く。
 世界は未だ、黄金色に輝いている。
 どこか近くで、蝉が、じじじと鳴いた。

「それで? その妖精はどうなったの?」

 くるくると傘を回してスターが問う。
 日傘に遮られた中に風が吹き、長い黒髪が音もなく揺れた。
 問われたサニーは意味ありげに笑って、

「その妖精はね、宣言どおり、紅白や黒白に挑もうとしたのよ」

 ふんふん、とルナとスター。
 サニーはびしっと人差し指を立てて、

「でも、魔女って基本的にうそつきだから――――」

 そう言った、サニーの上を。
 川を流れる、三月精の上を。



「うわああああぁぁぁぁぁぁん!」



 ――泣きながら、妖精が飛んでいった。

「…………」
「…………」

 ルナとスターがそろって頭上を見上げる。
 見れば、白衣を着て、ヘッドドレスを首にまき、小指に穴のあいたビールのフタをつけた蒼い妖精――チルノが、彼方から此方へ、此方から彼方へと飛んでいくところだった。
 それを追いかける、幾人かの少女たち。

「ケンカ売るなんていい度胸じゃない――」「――返しなさいよそれ――」「うちの備品なのよ――」「お前のものは私のもので、私のものは私のものだぜ――」「貴方の行いは目に余るものが――」
「あたい最強の女王になったんじゃなかったのおおおおぉぉぉぉぉぉ?!」

 重なりあう少女たちの声と、弾幕の音と、悲鳴と、爆発音と、また悲鳴。
 ひゅるるるると音を立てて氷精が地面に落ちていき、それを追うようにして物騒な少女たちが飛び去っていく。

「…………」
「…………」
「…………」

 その様子を、スターとサニーとルナは見上げて。


『平和ねえ……』


 異口同音に、言葉を揃えたのだった。

「さて、次は何のお話をする?」
「不思議なお話!」
「風変わりな出来事!」

 氷精も人間も妖怪もさしおいて、お話は続く。
 お話は続く。
 お話は続く。
 お話は続く。
 お話のお話が、ゆっくりと、幻想郷の川を流れていく。
 低いところからより低いところへと、遅々として進まない川。時計の針よりも、沈む太陽よりも、ゆっくりと流れる黄金色の川。
 その川の上に、舟が浮いている。
 木のうろで出来た丸太の舟。へりもなにもないその舟は、川に浮かぶ葉のように、ゆらゆらと揺れながら進んでいる。
 舟の上には、三人の妖精。
 舟の上には、三人の少女。
 おしゃべりが好きで、イタズラが大好きな、気ままな少女たちの遊びは続く。
 川のように、どこまでも。
 夢見る天気の下。
 黄金の昼下がり。
 三つ合わせた舌は、黄金の昼下がりの中、いつまでもいつまでも、楽しそうにお話の話を続けていた。




                                                                  END
                                                 BGM : ALL IN THE GOLDEN AFTERNOON




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↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。




お話しの、お話しの、お話し。




だがこの世に飢餓と貧困があるかぎり、博麗 霊夢は何度でも蘇るだろう。



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