1 夢十夜
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 ――こんな夢を見た。





 暗い夜の道を、一人で歩いていた。
 周りには誰もいない。
 遠くには人の声。
 近くにはひぐらしの声。
 どこか遠くからは、人の喧騒が聞こえる。いつもよりも賑やかな、祭りの喧騒。わいわいがやがやという賑やかな声。射的をするレナの声。ゲームを提案する魅音の声。梨花ちゃんと沙都子の楽しそうな声。
 ……おかしいな。
 外は、こんなに雨が降っているのに。
 月の光が見えないほどに雨が降っているのに、遠くから祭りの音がする。
 近くでは雨の音に負けないほどに、ひぐらしの声が聞こえる。
 だから、これが夢だと分かった。
 夢でなければ、手にバットを持って、夜の道を歩くはずがない。
 みんなの声は楽しそうだった。
 だから、寂しかった。
 夢の中だとしても、自分がそこにいないことに気付いたから。
 みんなの声は楽しそうだった。
 だから、嬉しかった。
 あんな目にあった沙都子が、楽しそうにしているのだから。
 そう考えれば、これは幸せな夢なんだろう。
 そこに前原圭一がいないのが、残念だけど。
 独りきりで、夜の道を歩き続ける。
 どこに向かっているのかははっきりしない。
 ただ、祭りに行きたかった。
 みんなの所へ行きたかった。
 だから、脚が痛むのにも構わずに歩き続けた。
 なぜバットを持っているのかは考えなかったし、捨てようとも思わなかった。
 ただ、歩き続けた。
 けれど、歩いても歩いても、祭りの場所へはたどり着けなかった。
 それどころか、喧騒はどんどん小さくなって。
 自分が、独りであると強く思ってしまった。
 足が重かった。
 止まってしまいたかった。
 何もしなければいいと思った。
 初めから、×そうだなんて思わなければ、今頃あの場所にいられたのに。
 ……けど、そういうわけにはいかない。
 ×さなければ。
 沙都子の幸せのために、ひいては部活メンバー全員で楽しく過ごすために――×さなければ。
 それだけを頼りに、歩き続ける。
 夢の中だからだろうか。そう思って歩いていると、足が軽く感じた。
 どこまでもいけるような気がした。
 なんでもできるような気がした。
 そのくせ頭は冷えていて――最高にクールだった。
 自分のやることが、はっきりと分かっていた。
 だから、歩き続けて――

 ――『障害』が、出てきた。

 夜の道の先に、障害が出てきた。
 遠くから異音を響かせて。
 光を伴って、障害が近付いてきた。
 祭りに行くのを防ごうとする障害。
 沙都子の幸せを防ごうとする障害。
 そうだ。
 自分の目的を、俺は夢の中ではっきりと理解した。
 障害は、取り除かないと。
 アレを、×さないと。
 そのために、このバットはあったのだ。
 徐々に近付いてくるソレに向かって、俺は手に持ったバットを、思いっきり振った。
 異音。
 ソレが転ぶ。それの勢いが落ちる。それが地面に転がる。
 バットを振った。
 異音。
 それが奇声を上げる。ひぐらしの声がかきけされる。
 バットを振った。
 異音。
 ソレの動きが速くなる。両手で身体を庇うようにする。
 バットを振った。
 異音。
 ソレの動きが遅くなる。ソレの声が小さくなる。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 ソレの動きが止まる。それの声が止まる。 
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 バットを振った。
 異音。
 ソレは、壊れてしまった。
 障害は、取り除かれた。
 これで祭りにいける。
 これで沙都子は幸せになれる。


 そう思った瞬間、夢は終わった。



 ――そんな夢を見た。






         ◆





 ――こんな夢を見た。




 暗い夜の森を、一人で歩いていた。
 周りには誰もいない。
 遠くからは何も聞こえない。
 すぐ近くでひぐらしの声。
 人の喧騒は聞こえない。祭りは終わってしまっている。俺は祭りに行かなかった。行けなかった。夜の森を独りきりで歩いていた。
 だから、これは夢だと思った。
 夢じゃなかったら、今頃祭りにいって、みんなと楽しく遊んでいるはずだから。
 障害は、もうないのだから。
 雨は振り止んでいなかった。森の中は葉が邪魔をして、雨水はたいして届かなかった。ただ、雨音のみが聞こえた。
 ひぐらしの声が、いつもよりも煩い。
 森の中だからだろう。
 俺は歩き続ける。
 バットは持っていない。
 代わりにスコップを持っていた。
 折りたたみ式の、自宅にあったスコップ。
 なんでこんなものを持っているんだろう――そう考えて、すぐに気付いた。
 スコップを持って居ない手で、『障害』を引き摺っていた。
 ――ああ、そうか。
 ソレを置きっぱなしだと、大変なことになるから。
 ソレがあったままだと、沙都子が幸せになれないから。
 だから、埋めようと思ったんだ。
 森の中に。
 誰もいない森の中に、埋めようと思ったのだ。
 そのことを思い出して、俺はソレを手放した。
 代わりにスコップを両手で握って、穴を掘る。
 穴を掘る。
 穴を掘る。
 穴を掘る。
 穴を掘る。
 穴を掘る。
 人が一人埋まるくらいの穴を掘って、ソレを埋めた。
 これで――この世から、ソレは消えた。
 すがすがしい気分だった。
 雨の中で歌いたいくらいだった。
 けれど、すぐに不安になった。
 ソレを穴の中に埋めたけど。
 穴から出てきたら、どうしよう。
 この世から消えても、土の中にまだソレはいるのだ。
 ソレが、消えたわけではないのだ。
 俺は不安になって、土を掘り返してみた。
 土の中には――誰もいなかった。
 ソレは、完璧に消えたのだ。
 よかった。
 これで、終わったのだ。
 今度こそすがすがしい気分になって、俺は雨とひぐらしの声の中で、踊った。
 大声で叫んで、スコップを振り回して踊った。
 ソレは消えた。
 祭りに行ける。
 沙都子が幸せになれる。
 そう思うと、疲れがどっときた。 
 安心して、眠くなった。
 俺はスコップを引き摺って、家に帰った。




 ――そんな夢を見た。





        ◆






 朝が来て、夢から覚めて。
 部屋の中を見回してみたら、土のついたスコップがあった。




 ――さて。




 どこまでが
だったんだろう?




                                     END

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↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。


◆あとがき◆


考えてみればひぐらしの二次創作も久しぶりですね(挨拶)
背景が黒なのは夢だからです。

一度でいいから馬鹿なのを書いて見たい……
圭一が『KOOL! KOOL! KOOOOOOL!』と叫びながら。
雛見沢の村でバイクを飛ばすようなモノを。
……いや、書きませんけどね。
「意外! それは悟史のバット!」
なんて書きませんとも、ええ。
いつか書くかもしれないけれど。

作品について。
そのまんま夢十夜が元ネタです。
時空列は祟り殺し編。
作品やり終わっていないと何のことか全くわからないのはいつものことです。
……基本的にネタバレが多いのか。
そろそろコメディも練習したいです。


おまけで一発ネタ。
……というか、いつか使うかも。

『ひぐらしの
く頃に 


もちろん解決編ではなく終了編でしかありえません。



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