「圭一くん……それ、何かな? 何、かな?」
「……バットを扱うのに資格はいらない。心の中で祈ってフルスイングするだけでいい」
                 ――フォンぐしゃ。






 こんな圭一inバットなら惚れる。






 殺されてしまう。
 このままでは殺されてしまう。
 雛見沢に引っ越してきて数週間――俺はようやくそのことに気づいた。
 雛見沢の異常性に。
 思えば、ヒントはいくらでもあったのだ。
 村の昔について話す時、妙に歯切れの悪い友人たち。
 何かを隠しているような態度。
 二重人格のような、態度の変化。
 まるで行動を監視されているかのような情報の広がり。
 そして――『転校』してしまった、北条悟史。
 ここは、変だ。
 田舎だからちょっとは違う所もあるだろう――とも思っていたのは初めだけだ。
 今ではもう、確信を持って言える。
 この村はおかしい、と。
 現に、レナは鉈を持ち歩いている。
 いつあれで殴り殺されるか解らない。
 いつ『前原圭一は転校してしまった』ということになるか解らない。
 殺されてしまう。
 転校したことになってしまう。
 ……だから、探した。
 対抗できるものを。
 自分の身を守れるものを。
 武器を。
「……あった、これだな」
 教室の後ろにあるロッカーを開けて、それを取り出す。
 武器は選ぶ必要があった。
 普段から持ち歩いてもおかしくないもの。
 それでいて、確実に身を守れるもの。
 破壊力と防止力のあるもの。
 もっとも身近で、単純で、強力なものを俺は選んだ。
 転校していった北条悟史の残したもの。
 すなわち、バットを。
「よし……これさえあれば、」
 これさえあれば――の続きを考えれるのは止めておいた。
 *すことが出来る、と考えてしまったら、歯止めが利きそうになかったから。
 手にしたバッドを軽く振ってみる。
 ……思ったよりも振りやすかった。
 これなら、かなり有効な武器になるだろう。
 ためしに何か殴ってみようか、そう考えバットを振り上げた瞬間、

 ……がら。

 と音がして、教室の扉が開いた。
 開いたその先に、レナがいた。
 バットを振り上げた姿勢のまま、レナと目が合った。
 ……まずい。
 言い訳もなにも出来ない状況。
 心構えも鍛錬も足りない現状。
 このままだとどう転んでもヤバい状況になる――
 俺がそう思った瞬間、レナはつかつかと歩み寄って、
 言った。
 嬉しそうな顔で。
「ネスくん……ネスくんだよね!」
「………………………………は?」
 何を言われてるのか、理解できなかった。
 理解する間もなく、レナは喋り続けた。
「私はポーラ! ネスくん、行こう?」
 考えるより先に、反射的に口が動いた。
「行くって、どこに」
 レナは笑って答える。
 嬉しそうに笑って答える。
 背中から鉈を取り出して掲げて答える。
「ギーグを倒しに行くんだよ。ネスくん、忘れちゃったの?」
「――誰だよそれ!!」
 そして俺は――
 乗り突っ込みの要領で、振り上げたままのバットをレナに振り下ろした。
 考えての行動ではなかった。
 わけのわからない言葉を吐くレナに、ハリセンで突っ込むかのように――
 バットを振り下ろしてしまったのだ。
「……え」
 レナは嬉しそうに笑ったまま、
 笑ったまま、倒れた。
 頭から血が流れている。
 それきり、動かない。
 倒れてしまったレナは、動かない。
 俺は――
 俺は――怖くなって、逃げ出した。
 レナを*してしまったことに脅えて、その場を逃げ出した。



          ◆



 逃げる。
 逃げ続ける。
 足を止めない。
 止めたら、後ろから*されるような気がする。
 誰に? ――自分の影に。
 けれども、幾ら走っても影はついてくる。
 まったく同じ速さで、追いかけてくる。
 そのことが怖くて、レナを*してしまったことが怖くて、俺が*されてしまうことが怖くて、走り続けた。
 走って走って走って、ようやく落ち着いた頃には、俺は山道にいた。
 独りぼっちで、山道にいた。
 誰もいない道を、歩く。
 ぺた、ぺた、ぺたと足音がする。
「……レナは……大丈夫かな」
 誰にともなく呟く。
 レナがあの後どうなってしまったのか、考えたくもなかった。
 ぺた、ぺた、ぺた。
 レナのことを考えないようにしながら、歩き続ける。
 ぺた、ぺた、ぺた。
「……?」
 違和感があった。

 ぺた。ぺた。ぺた。

 違和感の正体に気づいたわけじゃない。

 ぺた。ぺた。ぺた。

 漠然とした思いに衝き動かされて、

 ぺた。ぺた。

 立ち止まる。

 ――――ぺた。

 一拍遅れて、足音が止まった。

「……!!」
 足音は、ひとつだけ多かった。
 誰かの足音が、重なって聞こえていたのだ。
 自分じゃない誰かの足音が。
 それが意味することは一つしかない。
 ずっと、自分の後を、同じスピードで誰かがついてきていたのだ。
 影ではない。影は足音を立てない。
 実体を持った、誰かが。
 その誰かは、今も自分の後ろにいる。
「……ハ」
 笑い声ともつかない息を漏らす。
 心臓が早鐘を打っていることを感じられる。
 手にはバット。
 堅いその感触だけが、かろうじて平常心を保つきっかけになった。
 俺ははやる気持ちを抑えて振り返り――
 後ろを、見た。

 ――いた。
 背後、二メートルほど離れたところに、少年がいた。
 野球のユニフォームに身を包んだ少年がいた。
「……誰?」
 一瞬、『転校』していった悟史かと思った。
 悟史も野球チームに所属していたと誰かから聞いていたから。
 少年は、グローブを嵌めた手を俺に向かって突き出して言った。
「俺の名前は猪狩守。北条悟史、お前と勝負をしにきた!」
 ……突っ込みどころだらけだ、と思う。
 お前バットだけで人間を判断しているのか、とか。
 そのためだけにユニフォームで尾行していたのか、とか。
 そもそも二人だけでどう決着を付ける気なのか、とか。
 色々あったが、すべて阿呆くさくなって言うのは止めた。
 俺は無言で踵を返し、
「逃げるのか? 恐ろしいのは口先だけだったな」
 背中に投げかけられた言葉で足を止めた。
 振り返って一歩近づいて言う。
「あのな、俺は悟史じゃなくて、」
 俺の言葉を遮って、猪狩は言った。
「おまえの冷たいバットではオレは倒せん! さあ、」
葬らんホームラン!!」
 なおも言い続けようとした猪狩の言葉を遮って、俺はバットを振るった。
 ……なんかもう、一人*すのも二人*すのも同じのような気がしたから。
 というより、この場をさっさと離れたかった。
 ……呪われてるんじゃないだろうか、このバット。
 なんとなくそんなことすら思ってしまう。
 考えてみれば、ここまで状況がおかしくなってしまったのはバットを手にしてからで――
 そう思った瞬間、
 ガン、と後頭部に衝撃を感じた。
 痛みはなかった。
 地面に倒れた時には、衝撃すらなかった。
 ただ、漠然と誰にかに殴られたのだな、と思いながら――
 俺の意識は消失した。



        ◆



 ……暗い。
 何もかもが真っ暗で、何も見えない。
 世界にはなにも無い。 
 ただ、暗闇が在るだけだ。
「……圭ちゃん、起きた?」
 誰かの声が聞こえた。
 それが魅音の声だと気づき、同時に自分が目を閉じていることにも気づいた。
 ゆっくりと目を開く。
 闇が退き、光が現れる。
「おはよう、圭ちゃん。気分はどうかな?」
 もっとも、光は薄かった。
 今いる場所は全体的に薄暗く、よどんだ空気が鼻腔を擽った。
 次に気づいたことは、身体がほとんど動かないということだった。
 両手両足を拘束されている――理由はわからないけれど。
 声だけしか聞こえない魅音に向かって言う。
「……最悪だよ。ここ、いったいどこなんだ? というか、俺今どうなってるんだ?」
 声が笑う。魅音の声が。くすくすと。
 一頻り笑って、魅音は言う。愉しそうに。嬉しそうに。
「んー……知っても意味無いと思うよ? だって圭ちゃんは……」
 言いながら、魅音が姿を見せる。
 頭の向きも固定されているせいで気づかなかったけれど、すぐ近くにいたらしい。
 魅音はすぐ横から姿を現し、笑う。
 その手には、釘とトンカチ。
 それを何に使うのかは解らないけど――不穏な気配が確実にあった。
 真面なことには使われないだろう、という予想も。
「な、なんのつもりだ、魅音……?」
 平静を装って言う――言ったつもりだったけれど、声は震えていた。
「ん、解ってるでしょ?」
 すぐ近くまで顔を寄せられ、魅音に瞳を覗きこまれる。
 魅音は笑っていたけど、その眼は笑っていなかった。
 人とは違う――まるで鬼のような――眼だった。 
 魅音はそれ以上何も言わず、身体を離して――
 手に持った釘を構えて――
 とんかちを振り上げて――

 ――側にあったバットに、釘を打ち込んだ。

「……あ? なにしてるんだ、魅音?」
 かーんかーんと釘を打ち込みながら魅音が答える。
「見ての通り、おじさんは今釘バットを作ってるんだよ」
 それは見て解る。
 聞きたいのは理由であり……というか、あのバットって金属バットじゃなかったっけ?
 ひょっとしたら、雛見沢特製バットか雛見沢特製釘なのかもしれない。
「……どうして?」
「ほら、釘バットってところに意味があるから」
 魅音の手際はよく、バットはすぐに釘バットに変身した。
「うん、上出来上出来。これならいいかな」
 お手製の釘バットを二、三度振るって、魅音は満足げに言う。
 言って、釘バットを高くに持ち上げた。
 ……あ。ものすごく嫌な予感。
「み、魅音! なにをするダァ――!」
「ま、こんな所二次創作に来た圭ちゃんが不運だった、ってことで!」
 魅音は嬉々としてそう言い、バットを振り下ろし――

 ――フォンぐしゃ。

 という音がして俺の脳髄は飛び散り、目玉は飛び、爪は剥がれて割れ、地肌を残したままの頭皮が(多分地下拷問室かどこか)の壁に飛び散った。
 もちろん、目の前に――もっとも目は遠くに跳んで潰れたけど――にいる魅音にも体液は大量にかかった。
 血まみれの魅音は、それでも嬉しそうにバットを振り回して言った。

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪」




 ひぐらしのなく頃に――

 ――それは、ちょっと変わった田舎の村で繰り広げられる、俺と五人の少女たちの日常を描いた、愛と祟りと拷問の物語です。



 



        ◆番外。

 所は入江診療所。
 魅音が持ち込んだ釘バットをしげしげと眺めて、入江は言った。
「これは……前原くんのために作られた、前原くんのために作られた武器です」
 そして――
 引き出しから油性マジックを取り出し――
 釘バットに大きく――『K』と書き加えた。

「したがって名前は……『Kの釘バット』以外に考えられない!」



 完。
 



◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あとがき。
こんな〜シリーズの最新作は、ひぐらしより前原君のバットでした。


↑作品を面白いと感じた方、押していただければ幸いデス↑
 次回のやる気につながりますので……感想、ひと言遠慮なくどうぞ。

ほとんど思いつきで書いてるこのシリーズ、今回は前原圭一のバットです。
思いつきのネタが溜まったのでとりあえず書きました。
……主人公バットだなあ。
他には黄金バットというネタも思いついたのですが却下で。

元ネタは色々混じってます。
というか、文章長すぎ。
絵書き様ならこれ各一ページで終わるんだよなあ……修練せねば。
最後の釘バットは書いてる最中に思いついたネタ。
一番最後の元ネタ作品は大好きです。むしろダイ好き。

さて、次は何を書こう……

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